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ヨーロッパの銘醸地が消える?気候変動で急浮上する「北海道」という新産地

最近、少し衝撃的なニュースが目に留まりました。 2023年に欧州の複数の大学が発表した研究によると、このペースで温暖化が進めば、今世紀末までにヨーロッパの伝統的なワイン産地の約55%が失われる可能性があるというのです。 ポルトガル、イタリア、ギリシャといった、私たちが「ワインの本場」として親しんできた土地が、地図から消えるかもしれない。そんな話です。 そして、その裏側で今、静かに、しかし急速に注目を集めているのが「北海道」なんです。今回はソムリエ目線で、このニュースの背景を掘り下げてみたいと思います。 ワイン産地は、すでに「北へ」動き始めている この研究チームによると、最も深刻な温暖化シナリオでは、ワイン栽培に適した気候帯が北へ約900kmシフトすると予測されています。 実感としても、すでに変化は起きています。わずか20年前まで、ヨーロッパでワイン用ぶどう栽培が可能な北限は、フランス・シャンパーニュ地方あたりとされていました。それが今では、中部イングランドやスウェーデン南部にまで北上しているそうです。 フランス南西部のボルドーでは、「あと10〜20年で、この土地固有のぶどうは作れなくなるだろう」という声も出ているといいます。カリフォルニアのナパ・ヴァレーも年々厳しさを増していて、すでにオレゴン州やカナダのブリティッシュコロンビア州へ拠点を移す生産者もいるとか。オーストラリアでも、暑くなりすぎたハンター・ヴァレーから、南のタスマニア島へ生産者が集まり始めているそうです。 そして、その「北へ900km」という予測線の緯度上に位置しているのが、ほかでもない北海道なんです。 北海道のワイナリー数、この数年で急増中 北海道は、1999年まではワイナリーが10ヶ所以下しかありませんでした。しかし2000年代に入ってから増加が加速し、2017年8月には33ヶ所に。そして今、その数は76ヶ所にまで達しています。 わずか6年前には42ヶ所だったことを考えると、この短期間での伸びがいかに急激かがわかります。ブドウ生産量も日本一で、いまや北海道は日本最大のワイン産地になりました。 背景には、単なる「ブーム」ではない、気候面での裏付けがあります。国の研究機関(農研機構)の解析によると、1998年を境に北海道を含む北日本で気候シフトが起き、それ以降、余市町や三笠市など主要産地の4〜10月の平均気温が、世界のピノ・ノワール産地とされる「14〜16℃」の適温域を安定的に上回るようになったそうです。実際、北海道全体のピノ・ノワール栽培面積は、2010年の16.8haから2020年には40.1haへと、10年で約2.5倍に拡大しています。 ブルゴーニュの名門「ド・モンティーユ」が、函館に畑を拓いた この北海道の変化を象徴する出来事のひとつが、フランス・ブルゴーニュに300年の歴史を持つ名門ワイナリー「ドメーヌ・ド・モンティーユ」の函館進出です。 当主のエティエンヌ・ド・モンティーユ氏は2015年に来日し、北海道や長野のワインをテイスティングして衝撃を受けたことがきっかけで、日本でのワイン造りを決意したそうです。気候変動を見据えて「100年先まで続くワイン造り」ができる冷涼な土地を探し、北海道、長野、青森、山形を候補に検討した末、2016年に函館でのプロジェクト始動を決定しました。 2019年に函館市桔梗地区で植樹を開始し、敷地面積はブルゴーニュの自社畑とほぼ同じ37ha(サッカーコート約52面分)にまで拡大。2023年秋にワイナリーが竣工し、2025年12月には函館産ぶどうを使った初ヴィンテージ(2023年産)がついにリリースされました。外国資本によるワイナリーとしては、日本初のケースだそうです。 YOSHIKI氏も、余市でワイン造りに参入 もうひとつ話題になっているのが、X JAPANのYOSHIKI氏の動きです。 2025年5月、北海道・余市町で調印式が行われ、自身のワインブランド「Y by YOSHIKI」として、日本を代表する醸造家・曽我貴彦氏(ドメーヌ・タカヒコ)の監修のもと、本格的なワイン造りに乗り出すことが発表されました。0.4haの畑にピノ・ノワールの苗木1,191本を自ら植樹し、初収穫は2027年、リリースは早ければ2028年を予定しているそうです。 YOSHIKI氏は「北海道が良いワインを造るだけでなく、将来の輸出産業のひとつになってほしい」と語っていて、単なる趣味の域を超えて、日本ワインを世界に発信していくプロジェクトとして位置づけられています。 山梨は苦戦、北海道と長野は伸びる ── 国内でも進む「ワイン前線」の北上 実はこの北上現象、日本国内でも起きています。 国内最大の産地である山梨県では、醸造用ぶどうの生産量が2014年の7,356tから2021年には6,136tへと減少しました。一方、長野県は3,495tから5,677tへ、北海道は3,305tから4,339tへと、いずれも大きく伸びています。 山梨県で起きているのは、夏の成熟期の高温によって、ぶどうの色づきに必要なアントシアニンの合成が阻害される「着色不良」や、日焼けの被害だそうです。反射シートを敷いたり、樹皮を環状に剥ぎ取って果実に栄養を集中させたりと、現場では様々な適応策が試みられています。...

ヨーロッパの銘醸地が消える?気候変動で急浮上する「北海道」という新産地

最近、少し衝撃的なニュースが目に留まりました。 2023年に欧州の複数の大学が発表した研究によると、このペースで温暖化が進めば、今世紀末までにヨーロッパの伝統的なワイン産地の約55%が失われる可能性があるというのです。 ポルトガル、イタリア、ギリシャといった、私たちが「ワインの本場」として親しんできた土地が、地図から消えるかもしれない。そんな話です。 そして、その裏側で今、静かに、しかし急速に注目を集めているのが「北海道」なんです。今回はソムリエ目線で、このニュースの背景を掘り下げてみたいと思います。 ワイン産地は、すでに「北へ」動き始めている この研究チームによると、最も深刻な温暖化シナリオでは、ワイン栽培に適した気候帯が北へ約900kmシフトすると予測されています。 実感としても、すでに変化は起きています。わずか20年前まで、ヨーロッパでワイン用ぶどう栽培が可能な北限は、フランス・シャンパーニュ地方あたりとされていました。それが今では、中部イングランドやスウェーデン南部にまで北上しているそうです。 フランス南西部のボルドーでは、「あと10〜20年で、この土地固有のぶどうは作れなくなるだろう」という声も出ているといいます。カリフォルニアのナパ・ヴァレーも年々厳しさを増していて、すでにオレゴン州やカナダのブリティッシュコロンビア州へ拠点を移す生産者もいるとか。オーストラリアでも、暑くなりすぎたハンター・ヴァレーから、南のタスマニア島へ生産者が集まり始めているそうです。 そして、その「北へ900km」という予測線の緯度上に位置しているのが、ほかでもない北海道なんです。 北海道のワイナリー数、この数年で急増中 北海道は、1999年まではワイナリーが10ヶ所以下しかありませんでした。しかし2000年代に入ってから増加が加速し、2017年8月には33ヶ所に。そして今、その数は76ヶ所にまで達しています。 わずか6年前には42ヶ所だったことを考えると、この短期間での伸びがいかに急激かがわかります。ブドウ生産量も日本一で、いまや北海道は日本最大のワイン産地になりました。 背景には、単なる「ブーム」ではない、気候面での裏付けがあります。国の研究機関(農研機構)の解析によると、1998年を境に北海道を含む北日本で気候シフトが起き、それ以降、余市町や三笠市など主要産地の4〜10月の平均気温が、世界のピノ・ノワール産地とされる「14〜16℃」の適温域を安定的に上回るようになったそうです。実際、北海道全体のピノ・ノワール栽培面積は、2010年の16.8haから2020年には40.1haへと、10年で約2.5倍に拡大しています。 ブルゴーニュの名門「ド・モンティーユ」が、函館に畑を拓いた この北海道の変化を象徴する出来事のひとつが、フランス・ブルゴーニュに300年の歴史を持つ名門ワイナリー「ドメーヌ・ド・モンティーユ」の函館進出です。 当主のエティエンヌ・ド・モンティーユ氏は2015年に来日し、北海道や長野のワインをテイスティングして衝撃を受けたことがきっかけで、日本でのワイン造りを決意したそうです。気候変動を見据えて「100年先まで続くワイン造り」ができる冷涼な土地を探し、北海道、長野、青森、山形を候補に検討した末、2016年に函館でのプロジェクト始動を決定しました。 2019年に函館市桔梗地区で植樹を開始し、敷地面積はブルゴーニュの自社畑とほぼ同じ37ha(サッカーコート約52面分)にまで拡大。2023年秋にワイナリーが竣工し、2025年12月には函館産ぶどうを使った初ヴィンテージ(2023年産)がついにリリースされました。外国資本によるワイナリーとしては、日本初のケースだそうです。 YOSHIKI氏も、余市でワイン造りに参入 もうひとつ話題になっているのが、X JAPANのYOSHIKI氏の動きです。 2025年5月、北海道・余市町で調印式が行われ、自身のワインブランド「Y by YOSHIKI」として、日本を代表する醸造家・曽我貴彦氏(ドメーヌ・タカヒコ)の監修のもと、本格的なワイン造りに乗り出すことが発表されました。0.4haの畑にピノ・ノワールの苗木1,191本を自ら植樹し、初収穫は2027年、リリースは早ければ2028年を予定しているそうです。 YOSHIKI氏は「北海道が良いワインを造るだけでなく、将来の輸出産業のひとつになってほしい」と語っていて、単なる趣味の域を超えて、日本ワインを世界に発信していくプロジェクトとして位置づけられています。 山梨は苦戦、北海道と長野は伸びる ── 国内でも進む「ワイン前線」の北上 実はこの北上現象、日本国内でも起きています。 国内最大の産地である山梨県では、醸造用ぶどうの生産量が2014年の7,356tから2021年には6,136tへと減少しました。一方、長野県は3,495tから5,677tへ、北海道は3,305tから4,339tへと、いずれも大きく伸びています。 山梨県で起きているのは、夏の成熟期の高温によって、ぶどうの色づきに必要なアントシアニンの合成が阻害される「着色不良」や、日焼けの被害だそうです。反射シートを敷いたり、樹皮を環状に剥ぎ取って果実に栄養を集中させたりと、現場では様々な適応策が試みられています。...

シチリア・エトナ、悲願の「DOCG」昇格へ ― 火山が育てた奇跡のワイン、その最高峰への挑戦

ヨーロッパ最大の活火山が生む、唯一無二のワイン シチリア島の東に堂々とそびえるエトナ山。ヨーロッパ最大の活火山として知られるこの山の斜面には、火山灰と溶岩が織りなす独特の土壌にブドウ畑が広がっています。標高によって寒暖差も土壌の性格も大きく変わるため、同じ「エトナワイン」でも畑ひとつひとつでまったく違う個性を見せる ― それがエトナが世界中のワイン愛好家を惹きつけてやまない理由です。 そのエトナが今、大きな転換点を迎えようとしています。現在の格付け「DOC(統制原産地呼称)」から、イタリアワイン法における最高ランク「DOCG(統制保証原産地呼称)」への昇格です。 DOCGとは ― イタリアワインの頂点 イタリアのワインは、格付けの低い順に「IGT」「DOC」「DOCG」という3段階のピラミッド構造になっています。DOCGはこの頂点に位置し、産地・製法の基準がDOCよりもさらに厳格に定められた、いわば「お墨付き中のお墨付き」。認定されると、ボトルの首元にナンバリングされた国家保証シールが貼られ、化学分析や官能検査も省庁の委員会によって行われるようになります。バローロやバルバレスコ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノなど、名だたる銘醸地が名を連ねる格付けです。 エトナDOCが認定されたのは1968年。シチリア州で最初に生まれたDOCであり、イタリア全体で見ても歴史ある産地呼称のひとつです。それから半世紀以上を経た2023年11月、エトナDOC保護協会が満場一致でDOCGへの昇格申請を決議し、いよいよ昇格へのカウントダウンが始まりました。 数字で見るエトナDOCの「今」 栽培面積:2024年に過去最大の1,347ヘクタールへ拡大(シチリア全体のわずか1.4%という希少なエリア) 生産者数:保護協会には230の生産者が加盟(ボトリングされたワイン全体の95%をカバー) 生産本数:年間約580万本 栽培農家数の推移:2013年の203軒から2024年には474軒へと、10年でほぼ倍増 急成長を遂げる一方で、エトナは何百もの小さな家族経営の畑がモザイクのように集まってできた産地。この「小さな畑の集合体」であることが、実は昇格への最大のハードルにもなっています。 昇格への険しい道のり DOCからDOCGへ格上げするには、対象地域の生産者の51%以上、かつ栽培面積の51%以上を代表する署名による合意が必要というルールがあります。エトナのように小規模生産者がひしめく産地では、この合意形成が簡単ではありません。2025年秋の時点では、合意の閾値に達するためにあと約100の署名が必要な状況でした。 イタリア農業省の関係者は、年内に署名が揃えば「早ければ2026年の収穫(ヴィンテージ)から新DOCGを適用するという目標は、困難だが十分に達成可能」とコメントしています。 DOCG昇格で何が変わるのか 昇格は単なる肩書きの変更ではなく、生産ルール(ディシプリナーレ)そのものの大幅な見直しを伴います。 スプマンテ(発泡ワイン)の多様化:これまで黒ブドウ品種ネレッロ・マスカレーゼが主体だった規定に、地元の高貴な白ブドウ品種カッリカンテの使用が公式に認可される見込み。糖分無添加の「パ・ドゼ」スタイルも新たに解禁される。 単一区画(コントラーダ)表示の拡充:2011年に認可された133地区から、約30地区を追加し162地区へ拡充する方向で協議中。 自治体(コムーネ)名の表示:使用ブドウが100%その地区産であれば、エトナを構成する20の自治体名をラベルに表示できるようになる。 赤ワインの収量制限強化:単一区画表示を伴うエトナ・ロッソは、1ヘクタールあたりの収穫量がより厳しく制限される。 トレーサビリティの強化:ボトルの首元にナンバリング入りの国家保証シールを貼付。 生産者たちの声は、実は一様ではない 興味深いのは、当のエトナの造り手たちの間でも意見が分かれていることです。昇格を強力に推進してきたベナンティ家は「エトナの価値を証明する好機」と捉える一方、最低樹齢の要件などが新興ワイナリーの参入障壁になりかねないとも指摘します。ピエモンテの名門ガヤ家が手がける「IDDA」プロジェクトのジョヴァンニ・ガヤ氏は「格付けが上がるだけで自動的に価値が上がるわけではない」と慎重な立場。テヌータ・デッレ・テッレ・ネーレのマルコ・デ・グラツィア氏に至っては「DOCGという制度自体が無意味」と言い切り、個々の村名を前面に出したボトムアップの表示の方がブルゴーニュ的な価値向上に資すると主張しています。 格付けという制度と、生産者一人ひとりが積み上げてきた哲学。このせめぎ合いこそが、今のエトナの熱量を物語っているのかもしれません。 希少性を守りながら、世界へ...

シチリア・エトナ、悲願の「DOCG」昇格へ ― 火山が育てた奇跡のワイン、その最高峰への挑戦

ヨーロッパ最大の活火山が生む、唯一無二のワイン シチリア島の東に堂々とそびえるエトナ山。ヨーロッパ最大の活火山として知られるこの山の斜面には、火山灰と溶岩が織りなす独特の土壌にブドウ畑が広がっています。標高によって寒暖差も土壌の性格も大きく変わるため、同じ「エトナワイン」でも畑ひとつひとつでまったく違う個性を見せる ― それがエトナが世界中のワイン愛好家を惹きつけてやまない理由です。 そのエトナが今、大きな転換点を迎えようとしています。現在の格付け「DOC(統制原産地呼称)」から、イタリアワイン法における最高ランク「DOCG(統制保証原産地呼称)」への昇格です。 DOCGとは ― イタリアワインの頂点 イタリアのワインは、格付けの低い順に「IGT」「DOC」「DOCG」という3段階のピラミッド構造になっています。DOCGはこの頂点に位置し、産地・製法の基準がDOCよりもさらに厳格に定められた、いわば「お墨付き中のお墨付き」。認定されると、ボトルの首元にナンバリングされた国家保証シールが貼られ、化学分析や官能検査も省庁の委員会によって行われるようになります。バローロやバルバレスコ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノなど、名だたる銘醸地が名を連ねる格付けです。 エトナDOCが認定されたのは1968年。シチリア州で最初に生まれたDOCであり、イタリア全体で見ても歴史ある産地呼称のひとつです。それから半世紀以上を経た2023年11月、エトナDOC保護協会が満場一致でDOCGへの昇格申請を決議し、いよいよ昇格へのカウントダウンが始まりました。 数字で見るエトナDOCの「今」 栽培面積:2024年に過去最大の1,347ヘクタールへ拡大(シチリア全体のわずか1.4%という希少なエリア) 生産者数:保護協会には230の生産者が加盟(ボトリングされたワイン全体の95%をカバー) 生産本数:年間約580万本 栽培農家数の推移:2013年の203軒から2024年には474軒へと、10年でほぼ倍増 急成長を遂げる一方で、エトナは何百もの小さな家族経営の畑がモザイクのように集まってできた産地。この「小さな畑の集合体」であることが、実は昇格への最大のハードルにもなっています。 昇格への険しい道のり DOCからDOCGへ格上げするには、対象地域の生産者の51%以上、かつ栽培面積の51%以上を代表する署名による合意が必要というルールがあります。エトナのように小規模生産者がひしめく産地では、この合意形成が簡単ではありません。2025年秋の時点では、合意の閾値に達するためにあと約100の署名が必要な状況でした。 イタリア農業省の関係者は、年内に署名が揃えば「早ければ2026年の収穫(ヴィンテージ)から新DOCGを適用するという目標は、困難だが十分に達成可能」とコメントしています。 DOCG昇格で何が変わるのか 昇格は単なる肩書きの変更ではなく、生産ルール(ディシプリナーレ)そのものの大幅な見直しを伴います。 スプマンテ(発泡ワイン)の多様化:これまで黒ブドウ品種ネレッロ・マスカレーゼが主体だった規定に、地元の高貴な白ブドウ品種カッリカンテの使用が公式に認可される見込み。糖分無添加の「パ・ドゼ」スタイルも新たに解禁される。 単一区画(コントラーダ)表示の拡充:2011年に認可された133地区から、約30地区を追加し162地区へ拡充する方向で協議中。 自治体(コムーネ)名の表示:使用ブドウが100%その地区産であれば、エトナを構成する20の自治体名をラベルに表示できるようになる。 赤ワインの収量制限強化:単一区画表示を伴うエトナ・ロッソは、1ヘクタールあたりの収穫量がより厳しく制限される。 トレーサビリティの強化:ボトルの首元にナンバリング入りの国家保証シールを貼付。 生産者たちの声は、実は一様ではない 興味深いのは、当のエトナの造り手たちの間でも意見が分かれていることです。昇格を強力に推進してきたベナンティ家は「エトナの価値を証明する好機」と捉える一方、最低樹齢の要件などが新興ワイナリーの参入障壁になりかねないとも指摘します。ピエモンテの名門ガヤ家が手がける「IDDA」プロジェクトのジョヴァンニ・ガヤ氏は「格付けが上がるだけで自動的に価値が上がるわけではない」と慎重な立場。テヌータ・デッレ・テッレ・ネーレのマルコ・デ・グラツィア氏に至っては「DOCGという制度自体が無意味」と言い切り、個々の村名を前面に出したボトムアップの表示の方がブルゴーニュ的な価値向上に資すると主張しています。 格付けという制度と、生産者一人ひとりが積み上げてきた哲学。このせめぎ合いこそが、今のエトナの熱量を物語っているのかもしれません。 希少性を守りながら、世界へ...

イタリアで売れ残っているワインの量、実は「収穫1回分」に匹敵するそうです

最近、イタリアから少し気になるニュースが届きました。 イタリア全土のワインセラーに眠っている在庫が、2026年5月時点で5,300万ヘクトリットルを超えたという話です。 これは、イタリア国内の年間収穫量ほぼ1回分に匹敵する規模なんだそうです。 今回は、この「売れ残り」の背景と、ピエモンテ州で検討されているちょっと意外な対応策について、ソムリエ目線でまとめてみたいと思います。 セラーに眠る、収穫1回分のワイン イタリアワイン生産者連盟(Unione Italiana Vini)がローマでの年次総会で発表したところによると、2026年5月時点でイタリアのセラーに保管されているワインは5,300万ヘクトリットルを超え、前年同月比で7.3%の増加となりました。 翌6月のデータでは、ワインとマスト(果汁)を合わせた総在庫は5,030万ヘクトリットル(前年比+8.4%)。そのうちワイン単体は約4,660万ヘクトリットルで、ボトル換算すると62億本相当にもなるそうです。 しかも増えているのは特定のカテゴリーだけではありません。IGP(地理的表示保護)ワインが+8.3%、一般ワインが+8.2%、そして高級格付けであるDOP(原産地呼称保護)ワインも+5%と、あらゆる格付けで在庫が積み上がっているといいます。 この供給過多を受けて、2026年最初の5ヶ月間でイタリア国内のワイン取引価格は約6%下落。特にバルク(樽買い)ワイン市場では、価格への下押し圧力がかなり強くなっているそうです。 なぜここまで売れ残っているのか 原因として大きいのが、国内外での需要の落ち込みです。 とりわけ、欧州以外で最大の輸出市場であるアメリカ向けの輸出は、2026年最初の4ヶ月間で15.4%も減少しました。トランプ関税、ドル安、そしてアメリカ国内での消費低迷が重なった結果だといいます。 もうひとつ興味深いのが、アメリカでは過去25年間で初めて、スピリッツ(蒸留酒)の消費量がワインを上回ったという事実です。特に若い世代を中心に健康志向が強まっていて、ワインを飲む機会そのものが減っているとも言われています。ワインは今、カクテルやビール、ノンアルコール飲料などと「消費者の時間の奪い合い」をしている状態なんだそうです。 在庫の半分以上が、実は北イタリアに集中している もうひとつ押さえておきたいのが、この在庫は全国に均等に広がっているわけではないという点です。 イタリアの品質保護・不正防止当局(ICQRF)による「カンティーナ・イタリア」統計によると、在庫の56%超が北イタリアに集中していて、なかでもヴェネト州だけで全国在庫の25%以上を占めているとされています。 ヴェネト州は次の収穫でもさらに1,100万ヘクトリットル規模のブドウを迎える見込みで、すでに在庫が1,200万ヘクトリットルを超えている状態での収穫期突入になりそうだと報じられています。 ピエモンテで検討されている、意外な使い道 ここからが今回いちばんお伝えしたかった話です。 ピエモンテ州でも、市場危機や輸出不振の影響を強く受けたワイナリーを支援するため、州として約170万ユーロの緊急支援策を検討しています。7月末の州議会での正式承認を目指しているとのことです。 この支援策とは別に、地元のバルベーラ・ダスティ&モンフェラート・コンソーシアムから、興味深い提案が出ています。 ピエモンテのワイン業界ではすでに約4万ヘクトリットル(400万リットル)のバルク(樽買い)ワインが売れ残っているとされていて、その使い道の選択肢の一つとして、ビネガーやベルモット、蒸留酒への転用が検討されているそうです。 価格が暴落したバルクの赤ワインをそのまま安値で市場に出すよりも、品質と付加価値を保ちやすい別の製品に加工することで、市場価値の完全な喪失を防ごうという狙いです。 まだ複数の選択肢のうちの一つという段階で、正式に決まった政策ではありませんが、「ワインとして売れないなら、別の形で価値を残す」という発想そのものが、今のイタリアワイン業界が置かれている状況をよく表しているように思います。 ちなみに、南のシチリア州でも、ヨコバイの被害などで品質に問題が出た黒ブドウの救済策として、余剰ワインをアルコールに加工する「危機蒸留」の特例措置を政府に求める動きが出ています。イタリア全土で、似たような模索が同時多発的に起きているようです。 「量」から「質」への転換が求められる時代へ 業界の中では、この状況は一時的な不調ではなく、数年単位で続く可能性があるという見方も出てきています。フランスでは3〜5年に及ぶ危機だったという声もあるほどです。 そのため、単純な減産ではなく、新規植樹の一時停止や生産量の需要連動化、供給規制ツールの活用、生産者同士の連携強化といった構造的な対応の必要性が議論されています。...

イタリアで売れ残っているワインの量、実は「収穫1回分」に匹敵するそうです

最近、イタリアから少し気になるニュースが届きました。 イタリア全土のワインセラーに眠っている在庫が、2026年5月時点で5,300万ヘクトリットルを超えたという話です。 これは、イタリア国内の年間収穫量ほぼ1回分に匹敵する規模なんだそうです。 今回は、この「売れ残り」の背景と、ピエモンテ州で検討されているちょっと意外な対応策について、ソムリエ目線でまとめてみたいと思います。 セラーに眠る、収穫1回分のワイン イタリアワイン生産者連盟(Unione Italiana Vini)がローマでの年次総会で発表したところによると、2026年5月時点でイタリアのセラーに保管されているワインは5,300万ヘクトリットルを超え、前年同月比で7.3%の増加となりました。 翌6月のデータでは、ワインとマスト(果汁)を合わせた総在庫は5,030万ヘクトリットル(前年比+8.4%)。そのうちワイン単体は約4,660万ヘクトリットルで、ボトル換算すると62億本相当にもなるそうです。 しかも増えているのは特定のカテゴリーだけではありません。IGP(地理的表示保護)ワインが+8.3%、一般ワインが+8.2%、そして高級格付けであるDOP(原産地呼称保護)ワインも+5%と、あらゆる格付けで在庫が積み上がっているといいます。 この供給過多を受けて、2026年最初の5ヶ月間でイタリア国内のワイン取引価格は約6%下落。特にバルク(樽買い)ワイン市場では、価格への下押し圧力がかなり強くなっているそうです。 なぜここまで売れ残っているのか 原因として大きいのが、国内外での需要の落ち込みです。 とりわけ、欧州以外で最大の輸出市場であるアメリカ向けの輸出は、2026年最初の4ヶ月間で15.4%も減少しました。トランプ関税、ドル安、そしてアメリカ国内での消費低迷が重なった結果だといいます。 もうひとつ興味深いのが、アメリカでは過去25年間で初めて、スピリッツ(蒸留酒)の消費量がワインを上回ったという事実です。特に若い世代を中心に健康志向が強まっていて、ワインを飲む機会そのものが減っているとも言われています。ワインは今、カクテルやビール、ノンアルコール飲料などと「消費者の時間の奪い合い」をしている状態なんだそうです。 在庫の半分以上が、実は北イタリアに集中している もうひとつ押さえておきたいのが、この在庫は全国に均等に広がっているわけではないという点です。 イタリアの品質保護・不正防止当局(ICQRF)による「カンティーナ・イタリア」統計によると、在庫の56%超が北イタリアに集中していて、なかでもヴェネト州だけで全国在庫の25%以上を占めているとされています。 ヴェネト州は次の収穫でもさらに1,100万ヘクトリットル規模のブドウを迎える見込みで、すでに在庫が1,200万ヘクトリットルを超えている状態での収穫期突入になりそうだと報じられています。 ピエモンテで検討されている、意外な使い道 ここからが今回いちばんお伝えしたかった話です。 ピエモンテ州でも、市場危機や輸出不振の影響を強く受けたワイナリーを支援するため、州として約170万ユーロの緊急支援策を検討しています。7月末の州議会での正式承認を目指しているとのことです。 この支援策とは別に、地元のバルベーラ・ダスティ&モンフェラート・コンソーシアムから、興味深い提案が出ています。 ピエモンテのワイン業界ではすでに約4万ヘクトリットル(400万リットル)のバルク(樽買い)ワインが売れ残っているとされていて、その使い道の選択肢の一つとして、ビネガーやベルモット、蒸留酒への転用が検討されているそうです。 価格が暴落したバルクの赤ワインをそのまま安値で市場に出すよりも、品質と付加価値を保ちやすい別の製品に加工することで、市場価値の完全な喪失を防ごうという狙いです。 まだ複数の選択肢のうちの一つという段階で、正式に決まった政策ではありませんが、「ワインとして売れないなら、別の形で価値を残す」という発想そのものが、今のイタリアワイン業界が置かれている状況をよく表しているように思います。 ちなみに、南のシチリア州でも、ヨコバイの被害などで品質に問題が出た黒ブドウの救済策として、余剰ワインをアルコールに加工する「危機蒸留」の特例措置を政府に求める動きが出ています。イタリア全土で、似たような模索が同時多発的に起きているようです。 「量」から「質」への転換が求められる時代へ 業界の中では、この状況は一時的な不調ではなく、数年単位で続く可能性があるという見方も出てきています。フランスでは3〜5年に及ぶ危機だったという声もあるほどです。 そのため、単純な減産ではなく、新規植樹の一時停止や生産量の需要連動化、供給規制ツールの活用、生産者同士の連携強化といった構造的な対応の必要性が議論されています。...

酷暑が生んだバローロ2022年、実は「近代化の転換点」と言われています

最近、ピエモンテから届いた興味深いニュースをご紹介したいと思います。 イタリアワインの王様「バローロ」の2022年ヴィンテージが、専門家の間で「バローロが近代へと足を踏み入れた転換点」と評されているという話です。 しかもその背景にあるのは、記録的な干ばつと酷暑という、一見ワイン造りにとって最悪の条件だったという点が面白いところなんです。 そもそも、バローロってどんなワイン? 本題に入る前に、少しだけおさらいを。 バローロは、イタリア・ピエモンテ州ランゲ地区で、ネッビオーロという黒ブドウ品種だけを使って造られる赤ワインです。 力強いタンニンと高い酸、そして長期熟成能力から「イタリアワインの王様」と呼ばれていて、伝統的なスタイルでは10年、20年と熟成させてから飲まれることも珍しくありません。 だからこそ、その年の気候がどうだったかが、何年も先の味わいを大きく左右することになります。 記録的な干ばつと酷暑に見舞われた2022年 2022年のピエモンテは、暖冬・乾燥した春・猛暑の夏という、極端な気候の年でした。 バローロの畑では年間で約480mmの降水量が必要とされていますが、2022年に降ったのはわずか385mmほど。冬の積雪すら十分でなかったことが「本当の異常」だったと、生産者のファビオ・アレッサンドリア氏(G.B.ブルロット)は振り返っています。 収穫は例年より10〜20日も早まり、生産者のキアラ・ボスキス氏(E.ピラ&フィリ)は、名畑カンヌビでの収穫を9月12日というその蔵の過去最速記録でスタートしたそうです。 「比較できる年を探すのが難しい。小麦さえ収穫できないほどの干ばつだった1947〜48年まで遡らないといけない」と語る生産者もいたほど、記憶に残る厳しい一年だったようです。 それでも、グラスの中はフレッシュだった 普通に考えると、これだけの猛暑と乾燥が重なれば、ブドウは熟しすぎて重たいワインになりそうなものです。 ところが実際に試飲された専門家たちの評価は、意外にもポジティブなものでした。 JamesSuckling.comのアルド・フィオルデッリ氏は、2022年のバローロについて「予想外にフレッシュで、正確で、エレガント」と表現し、今すぐ楽しむという観点では2017年・2018年・2020年よりも優れていると評しています。 理由として挙げられているのが、水不足によってネッビオーロ特有の旺盛な樹勢が自然に抑えられたこと。過剰な糖分の蓄積や、糖とタンニンの熟度のズレが起きにくくなり、かえってバランスの取れたブドウが育ったと分析されています。 生産者のステファノ・ガリアルド氏(ジャンニ・ガリアルド)は、この年をこう振り返っています。 「2022年は私たちに謙虚さを教えてくれました。すべてを理解したと思っていた人たちも、考え直す必要があったんです。『暑い年は重く、涼しい年は硬い』というロジックを、私たちは超えていかなければなりません」 造り手たちの「リセット」──醸造アプローチの変化 もうひとつ興味深いのが、この年をきっかけに醸造アプローチそのものを見直した造り手が多かったという点です。 長時間のマセラシオン(果皮浸漬)や、抽出の強い「サブマージドキャップ」といった伝統的な手法を控え、発酵温度を少し低めに設定し、ポンピングオーバー(液循環)の回数を減らし、早めにワインを引き上げる。 こうした現代的な造り方によって、透明感があり、洗練された味わいのバローロが生まれたと言われています。 老舗ジャコモ・コンテルノ社のロベルト・コンテルノ氏は、「70年は持たないかもしれない」と長期熟成能力の限界を認めつつも、その透明感とバランスの良さは否定できないと語っています。同社では、最高峰キュヴェ「モンフォルティーノ・リゼルヴァ」の2022年生産自体を見送るという、厳しい選択もされたようです。 「畑の個性」より「ブレンドの魅力」が光った年 一方で、この年の弱点として指摘されているのが、単一畑ごとの個性がやや控えめになったという点です。 ワイン評論家アントニオ・ガローニ氏(Vinous)は、2022年を「25年以上ピエモンテを訪れてきた中で最も複雑なヴィンテージのひとつ」と表現し、「不揃いで一貫性に欠ける」と慎重な見方を示しています。誰かがステレオのボリュームをささやき声まで絞ったような、スケールの小さいワインが多かったとも述べています。 ただ、これは裏を返せば、複数の村のブドウをブレンドして造る伝統的な「クラシック・バローロ」のスタイルが、かえって輝いた年だったとも言えるようです。 実際、G.B.ブルロット社は2022年、看板の単一畑「モンヴィリエーロ」の生産を見送り、収穫したブドウすべてを伝統的なクラシックブレンドに回すという決断をしています。その結果生まれたワインは、シナモンキャンディやルバーブ、野いちごを思わせる香りを持つ、フルボディでバランスの取れた仕上がりになったと高く評価されています。...

酷暑が生んだバローロ2022年、実は「近代化の転換点」と言われています

最近、ピエモンテから届いた興味深いニュースをご紹介したいと思います。 イタリアワインの王様「バローロ」の2022年ヴィンテージが、専門家の間で「バローロが近代へと足を踏み入れた転換点」と評されているという話です。 しかもその背景にあるのは、記録的な干ばつと酷暑という、一見ワイン造りにとって最悪の条件だったという点が面白いところなんです。 そもそも、バローロってどんなワイン? 本題に入る前に、少しだけおさらいを。 バローロは、イタリア・ピエモンテ州ランゲ地区で、ネッビオーロという黒ブドウ品種だけを使って造られる赤ワインです。 力強いタンニンと高い酸、そして長期熟成能力から「イタリアワインの王様」と呼ばれていて、伝統的なスタイルでは10年、20年と熟成させてから飲まれることも珍しくありません。 だからこそ、その年の気候がどうだったかが、何年も先の味わいを大きく左右することになります。 記録的な干ばつと酷暑に見舞われた2022年 2022年のピエモンテは、暖冬・乾燥した春・猛暑の夏という、極端な気候の年でした。 バローロの畑では年間で約480mmの降水量が必要とされていますが、2022年に降ったのはわずか385mmほど。冬の積雪すら十分でなかったことが「本当の異常」だったと、生産者のファビオ・アレッサンドリア氏(G.B.ブルロット)は振り返っています。 収穫は例年より10〜20日も早まり、生産者のキアラ・ボスキス氏(E.ピラ&フィリ)は、名畑カンヌビでの収穫を9月12日というその蔵の過去最速記録でスタートしたそうです。 「比較できる年を探すのが難しい。小麦さえ収穫できないほどの干ばつだった1947〜48年まで遡らないといけない」と語る生産者もいたほど、記憶に残る厳しい一年だったようです。 それでも、グラスの中はフレッシュだった 普通に考えると、これだけの猛暑と乾燥が重なれば、ブドウは熟しすぎて重たいワインになりそうなものです。 ところが実際に試飲された専門家たちの評価は、意外にもポジティブなものでした。 JamesSuckling.comのアルド・フィオルデッリ氏は、2022年のバローロについて「予想外にフレッシュで、正確で、エレガント」と表現し、今すぐ楽しむという観点では2017年・2018年・2020年よりも優れていると評しています。 理由として挙げられているのが、水不足によってネッビオーロ特有の旺盛な樹勢が自然に抑えられたこと。過剰な糖分の蓄積や、糖とタンニンの熟度のズレが起きにくくなり、かえってバランスの取れたブドウが育ったと分析されています。 生産者のステファノ・ガリアルド氏(ジャンニ・ガリアルド)は、この年をこう振り返っています。 「2022年は私たちに謙虚さを教えてくれました。すべてを理解したと思っていた人たちも、考え直す必要があったんです。『暑い年は重く、涼しい年は硬い』というロジックを、私たちは超えていかなければなりません」 造り手たちの「リセット」──醸造アプローチの変化 もうひとつ興味深いのが、この年をきっかけに醸造アプローチそのものを見直した造り手が多かったという点です。 長時間のマセラシオン(果皮浸漬)や、抽出の強い「サブマージドキャップ」といった伝統的な手法を控え、発酵温度を少し低めに設定し、ポンピングオーバー(液循環)の回数を減らし、早めにワインを引き上げる。 こうした現代的な造り方によって、透明感があり、洗練された味わいのバローロが生まれたと言われています。 老舗ジャコモ・コンテルノ社のロベルト・コンテルノ氏は、「70年は持たないかもしれない」と長期熟成能力の限界を認めつつも、その透明感とバランスの良さは否定できないと語っています。同社では、最高峰キュヴェ「モンフォルティーノ・リゼルヴァ」の2022年生産自体を見送るという、厳しい選択もされたようです。 「畑の個性」より「ブレンドの魅力」が光った年 一方で、この年の弱点として指摘されているのが、単一畑ごとの個性がやや控えめになったという点です。 ワイン評論家アントニオ・ガローニ氏(Vinous)は、2022年を「25年以上ピエモンテを訪れてきた中で最も複雑なヴィンテージのひとつ」と表現し、「不揃いで一貫性に欠ける」と慎重な見方を示しています。誰かがステレオのボリュームをささやき声まで絞ったような、スケールの小さいワインが多かったとも述べています。 ただ、これは裏を返せば、複数の村のブドウをブレンドして造る伝統的な「クラシック・バローロ」のスタイルが、かえって輝いた年だったとも言えるようです。 実際、G.B.ブルロット社は2022年、看板の単一畑「モンヴィリエーロ」の生産を見送り、収穫したブドウすべてを伝統的なクラシックブレンドに回すという決断をしています。その結果生まれたワインは、シナモンキャンディやルバーブ、野いちごを思わせる香りを持つ、フルボディでバランスの取れた仕上がりになったと高く評価されています。...

2026年のシャンパーニュ、実は記録的な夏の影響を受けています

最近、フランスから気になるニュースが届きました。 シャンパーニュ地方が記録的な熱波と干ばつに見舞われていて、今年の収穫にかなり影響が出そうだという話です。 ワイン好きなら知っておいて損はない内容だと思うので、ソムリエ目線でまとめてみますね。 そもそも、シャンパーニュってどう作られているの? 本題に入る前に、少しだけ基本のおさらいをさせてください。 シャンパーニュは、フランス北東部のシャンパーニュ地方で、決められた製法(瓶内二次発酵)で造られたスパークリングワインだけに与えられる呼び名です。 同じ製法でも産地が違えば、「クレマン」や「スプマンテ」といった別の名前になります。 畑でブドウを育てるところから瓶詰めされたワインが出荷されるまで、実は最短でも数年かかる、とても時間のかかるお酒なんです。 だからこそ、今年のような気候の出来事が、何年も先の味わいにじわじわと影響してくるんですよね。 フランスを襲った、観測史上最も暑い夏 フランスでは今年5月以降、大規模な熱波が3回発生しました。 特に6月24日は全国平均気温が30.0℃に達し、観測史上もっとも暑い日を記録したそうです。 シャンパーニュ地方をはじめ、ブルゴーニュやボルドーといった主要な産地でも、畑の水分がかなり厳しい状態に。 ブドウの生育が例年より早まる一方、実の肥大が追いつかず、房そのものが小さくなっているといいます。 収量は約10%減の見込み、収穫は史上最速ペース シャンパーニュ生産者組合の会長を務めるマキシム・トゥバール氏によると、今年の収量は前年より約10%少なくなる見込みとのことです。 収穫の開始時期も、例年より1ヶ月ほど早い8月中旬になりそうで、これは同地方の歴史上もっとも早いペースなんだそうです。 「畑を見ていると、可能性が太陽の下でどんどん溶けていくのがわかる」というブルゴーニュの生産者団体トップのコメントも紹介されていて、現地の危機感が伝わってきます。 品質への影響は?──リザーブワインという仕組み 「収量が減る=品質が落ちる」と思われがちですが、実はそう単純ではありません。 シャンパーニュには、複数年のワインをブレンドして毎年同じ味わいを保つ「リザーブワイン」という仕組みがあります。 今年のように収穫量が少ない年でも、蔵に眠る過去のヴィンテージを使うことで、最終的な生産量への影響はある程度抑えられる見通しです。 ただし、猛暑と乾燥はブドウの糖度やアルコール度数に変化を与えることが多く、今年ならではの味わいの個性は出てくるかもしれません。 糖度が上がれば果実味は豊かになりやすい一方、酸味は落ち着きやすくなるので、シャンパーニュらしいシャープさとのバランスをどう取るかが、造り手の腕の見せどころになりそうです。 「量が減る年」だからこそ面白い ワインの世界では、収穫量が少なかった年のヴィンテージが、後になって特別な存在として語られることがよくあります。 もちろん今年のシャンパーニュが実際にボトルとして店頭に並ぶのは、まだ何年も先の話です。 熟成を経てグラスに注がれる頃には、今年の夏の記録的な暑さも、「あの年」を語るひとつのエピソードになっているはずです。 気長に、その日を楽しみにしておきたいですね。 こんな時こそ、泡の世界を広げてみませんか...

2026年のシャンパーニュ、実は記録的な夏の影響を受けています

最近、フランスから気になるニュースが届きました。 シャンパーニュ地方が記録的な熱波と干ばつに見舞われていて、今年の収穫にかなり影響が出そうだという話です。 ワイン好きなら知っておいて損はない内容だと思うので、ソムリエ目線でまとめてみますね。 そもそも、シャンパーニュってどう作られているの? 本題に入る前に、少しだけ基本のおさらいをさせてください。 シャンパーニュは、フランス北東部のシャンパーニュ地方で、決められた製法(瓶内二次発酵)で造られたスパークリングワインだけに与えられる呼び名です。 同じ製法でも産地が違えば、「クレマン」や「スプマンテ」といった別の名前になります。 畑でブドウを育てるところから瓶詰めされたワインが出荷されるまで、実は最短でも数年かかる、とても時間のかかるお酒なんです。 だからこそ、今年のような気候の出来事が、何年も先の味わいにじわじわと影響してくるんですよね。 フランスを襲った、観測史上最も暑い夏 フランスでは今年5月以降、大規模な熱波が3回発生しました。 特に6月24日は全国平均気温が30.0℃に達し、観測史上もっとも暑い日を記録したそうです。 シャンパーニュ地方をはじめ、ブルゴーニュやボルドーといった主要な産地でも、畑の水分がかなり厳しい状態に。 ブドウの生育が例年より早まる一方、実の肥大が追いつかず、房そのものが小さくなっているといいます。 収量は約10%減の見込み、収穫は史上最速ペース シャンパーニュ生産者組合の会長を務めるマキシム・トゥバール氏によると、今年の収量は前年より約10%少なくなる見込みとのことです。 収穫の開始時期も、例年より1ヶ月ほど早い8月中旬になりそうで、これは同地方の歴史上もっとも早いペースなんだそうです。 「畑を見ていると、可能性が太陽の下でどんどん溶けていくのがわかる」というブルゴーニュの生産者団体トップのコメントも紹介されていて、現地の危機感が伝わってきます。 品質への影響は?──リザーブワインという仕組み 「収量が減る=品質が落ちる」と思われがちですが、実はそう単純ではありません。 シャンパーニュには、複数年のワインをブレンドして毎年同じ味わいを保つ「リザーブワイン」という仕組みがあります。 今年のように収穫量が少ない年でも、蔵に眠る過去のヴィンテージを使うことで、最終的な生産量への影響はある程度抑えられる見通しです。 ただし、猛暑と乾燥はブドウの糖度やアルコール度数に変化を与えることが多く、今年ならではの味わいの個性は出てくるかもしれません。 糖度が上がれば果実味は豊かになりやすい一方、酸味は落ち着きやすくなるので、シャンパーニュらしいシャープさとのバランスをどう取るかが、造り手の腕の見せどころになりそうです。 「量が減る年」だからこそ面白い ワインの世界では、収穫量が少なかった年のヴィンテージが、後になって特別な存在として語られることがよくあります。 もちろん今年のシャンパーニュが実際にボトルとして店頭に並ぶのは、まだ何年も先の話です。 熟成を経てグラスに注がれる頃には、今年の夏の記録的な暑さも、「あの年」を語るひとつのエピソードになっているはずです。 気長に、その日を楽しみにしておきたいですね。 こんな時こそ、泡の世界を広げてみませんか...

「沖縄料理とイタリアワイン」ペアリングセミナー レポート

先日、いつもお世話になっている料理教室にて開催したワインセミナー「沖縄料理とイタリアワイン」の模様をレポートします。 「沖縄料理とイタリアワイン」——合わせること自体はできる。でも、どこまで精度を上げられるか、少し不安でした。私の半分は沖縄の血が流れています。謎の使命感が沸々と湧くことで今までの経験とひらめきにより導き出した組み合わせ。それを実際にワインと料理を合わせてみると、両者は驚くほど自然に共鳴してくれたんです。 沖縄料理には、豚肉文化、素材を活かしたシンプルな味付け、そして泡盛に代表される発酵の文化があります。一方イタリアも、地域ごとに「その土地の料理と一緒に育ってきたワイン」がある国。今回はエミリア・ロマーニャ、シチリア、プーリア、フリウリ、マルケ、トスカーナと、イタリアを縦断するように6つの産地のワインを選び、それぞれを沖縄料理と合わせました。 1本目|チンクエ・カンピ テルビアンク 2023 × 青パパイヤしりしり イタリア北部エミリア・ロマーニャ州、樹齢100年以上の古木トレッビアーノを使った自然派の微発泡ワイン。フィルターをかけない無添加製法で、淡い麦わら色にうっすら濁りが残るのが特徴です。 合わせたのは青パパイヤしりしり。素材の苦みとシャキシャキ感を活かした「引き算の料理」に、このワインの白出汁のようなじんわりとした旨みがよく合いました。一口目は控えめな印象でも、飲み込んだ後にゆっくりと旨みが広がる——上質なお吸い物に近い感覚です。 2本目|グルフィ ヴァルカンツィリア 2024 × もずく天ぷら 舞台はシチリア島。標高420メートルの丘で育つ土着品種カリカンテとシャルドネのブレンドで、昼夜の寒暖差が生む上品な酸とミネラル感が持ち味です。 合わせたのは、沖縄産もずくの天ぷら。ワインのミネラル感と磯の塩味が「海のニュアンス」でつながり、きれいな酸が天ぷらの油をすっきり流してくれます。「天ぷらにはビールよりワインが合う」という話をよくするのですが、まさにそれを実感できるペアリングでした。 3本目|ファタローネ プリミティーヴォ・ロゼ テレス 2024 × タコライス プーリア州から、プリミティーヴォの「ラチェーミ」と呼ばれる二番果だけを使った希少なロゼ。プレスせず自重で流れ落ちるフリーラン果汁のみを使う、とても手間のかかる一本です。 1980年代沖縄県で生まれたタコライスと合わせました。タンニンが穏やかなロゼはスパイシーなチリミートと喧嘩しないし、白ワインよりボディがあるので肉のボリューム感にもちゃんと寄り添える。果実味がチリの辛みをやさしく包んでくれました。 この組み合わせは参加者の皆さんからの反応が特に良く、当日いちばん盛り上がったペアリングのひとつになりました。 4本目|プリモシッチ ピノ・グリージョ オレンジワイン 2023...

「沖縄料理とイタリアワイン」ペアリングセミナー レポート

先日、いつもお世話になっている料理教室にて開催したワインセミナー「沖縄料理とイタリアワイン」の模様をレポートします。 「沖縄料理とイタリアワイン」——合わせること自体はできる。でも、どこまで精度を上げられるか、少し不安でした。私の半分は沖縄の血が流れています。謎の使命感が沸々と湧くことで今までの経験とひらめきにより導き出した組み合わせ。それを実際にワインと料理を合わせてみると、両者は驚くほど自然に共鳴してくれたんです。 沖縄料理には、豚肉文化、素材を活かしたシンプルな味付け、そして泡盛に代表される発酵の文化があります。一方イタリアも、地域ごとに「その土地の料理と一緒に育ってきたワイン」がある国。今回はエミリア・ロマーニャ、シチリア、プーリア、フリウリ、マルケ、トスカーナと、イタリアを縦断するように6つの産地のワインを選び、それぞれを沖縄料理と合わせました。 1本目|チンクエ・カンピ テルビアンク 2023 × 青パパイヤしりしり イタリア北部エミリア・ロマーニャ州、樹齢100年以上の古木トレッビアーノを使った自然派の微発泡ワイン。フィルターをかけない無添加製法で、淡い麦わら色にうっすら濁りが残るのが特徴です。 合わせたのは青パパイヤしりしり。素材の苦みとシャキシャキ感を活かした「引き算の料理」に、このワインの白出汁のようなじんわりとした旨みがよく合いました。一口目は控えめな印象でも、飲み込んだ後にゆっくりと旨みが広がる——上質なお吸い物に近い感覚です。 2本目|グルフィ ヴァルカンツィリア 2024 × もずく天ぷら 舞台はシチリア島。標高420メートルの丘で育つ土着品種カリカンテとシャルドネのブレンドで、昼夜の寒暖差が生む上品な酸とミネラル感が持ち味です。 合わせたのは、沖縄産もずくの天ぷら。ワインのミネラル感と磯の塩味が「海のニュアンス」でつながり、きれいな酸が天ぷらの油をすっきり流してくれます。「天ぷらにはビールよりワインが合う」という話をよくするのですが、まさにそれを実感できるペアリングでした。 3本目|ファタローネ プリミティーヴォ・ロゼ テレス 2024 × タコライス プーリア州から、プリミティーヴォの「ラチェーミ」と呼ばれる二番果だけを使った希少なロゼ。プレスせず自重で流れ落ちるフリーラン果汁のみを使う、とても手間のかかる一本です。 1980年代沖縄県で生まれたタコライスと合わせました。タンニンが穏やかなロゼはスパイシーなチリミートと喧嘩しないし、白ワインよりボディがあるので肉のボリューム感にもちゃんと寄り添える。果実味がチリの辛みをやさしく包んでくれました。 この組み合わせは参加者の皆さんからの反応が特に良く、当日いちばん盛り上がったペアリングのひとつになりました。 4本目|プリモシッチ ピノ・グリージョ オレンジワイン 2023...