酷暑が生んだバローロ2022年、実は「近代化の転換点」と言われています

最近、ピエモンテから届いた興味深いニュースをご紹介したいと思います。

イタリアワインの王様「バローロ」の2022年ヴィンテージが、専門家の間で「バローロが近代へと足を踏み入れた転換点」と評されているという話です。

しかもその背景にあるのは、記録的な干ばつと酷暑という、一見ワイン造りにとって最悪の条件だったという点が面白いところなんです。

そもそも、バローロってどんなワイン?

本題に入る前に、少しだけおさらいを。

バローロは、イタリア・ピエモンテ州ランゲ地区で、ネッビオーロという黒ブドウ品種だけを使って造られる赤ワインです。

力強いタンニンと高い酸、そして長期熟成能力から「イタリアワインの王様」と呼ばれていて、伝統的なスタイルでは10年、20年と熟成させてから飲まれることも珍しくありません。

だからこそ、その年の気候がどうだったかが、何年も先の味わいを大きく左右することになります。

記録的な干ばつと酷暑に見舞われた2022年

2022年のピエモンテは、暖冬・乾燥した春・猛暑の夏という、極端な気候の年でした。

バローロの畑では年間で約480mmの降水量が必要とされていますが、2022年に降ったのはわずか385mmほど。冬の積雪すら十分でなかったことが「本当の異常」だったと、生産者のファビオ・アレッサンドリア氏(G.B.ブルロット)は振り返っています。

収穫は例年より10〜20日も早まり、生産者のキアラ・ボスキス氏(E.ピラ&フィリ)は、名畑カンヌビでの収穫を9月12日というその蔵の過去最速記録でスタートしたそうです。

「比較できる年を探すのが難しい。小麦さえ収穫できないほどの干ばつだった1947〜48年まで遡らないといけない」と語る生産者もいたほど、記憶に残る厳しい一年だったようです。

それでも、グラスの中はフレッシュだった

普通に考えると、これだけの猛暑と乾燥が重なれば、ブドウは熟しすぎて重たいワインになりそうなものです。

ところが実際に試飲された専門家たちの評価は、意外にもポジティブなものでした。

JamesSuckling.comのアルド・フィオルデッリ氏は、2022年のバローロについて「予想外にフレッシュで、正確で、エレガント」と表現し、今すぐ楽しむという観点では2017年・2018年・2020年よりも優れていると評しています。

理由として挙げられているのが、水不足によってネッビオーロ特有の旺盛な樹勢が自然に抑えられたこと。過剰な糖分の蓄積や、糖とタンニンの熟度のズレが起きにくくなり、かえってバランスの取れたブドウが育ったと分析されています。

生産者のステファノ・ガリアルド氏(ジャンニ・ガリアルド)は、この年をこう振り返っています。

「2022年は私たちに謙虚さを教えてくれました。すべてを理解したと思っていた人たちも、考え直す必要があったんです。『暑い年は重く、涼しい年は硬い』というロジックを、私たちは超えていかなければなりません」

造り手たちの「リセット」──醸造アプローチの変化

もうひとつ興味深いのが、この年をきっかけに醸造アプローチそのものを見直した造り手が多かったという点です。

長時間のマセラシオン(果皮浸漬)や、抽出の強い「サブマージドキャップ」といった伝統的な手法を控え、発酵温度を少し低めに設定し、ポンピングオーバー(液循環)の回数を減らし、早めにワインを引き上げる。

こうした現代的な造り方によって、透明感があり、洗練された味わいのバローロが生まれたと言われています。

老舗ジャコモ・コンテルノ社のロベルト・コンテルノ氏は、「70年は持たないかもしれない」と長期熟成能力の限界を認めつつも、その透明感とバランスの良さは否定できないと語っています。同社では、最高峰キュヴェ「モンフォルティーノ・リゼルヴァ」の2022年生産自体を見送るという、厳しい選択もされたようです。

「畑の個性」より「ブレンドの魅力」が光った年

一方で、この年の弱点として指摘されているのが、単一畑ごとの個性がやや控えめになったという点です。

ワイン評論家アントニオ・ガローニ氏(Vinous)は、2022年を「25年以上ピエモンテを訪れてきた中で最も複雑なヴィンテージのひとつ」と表現し、「不揃いで一貫性に欠ける」と慎重な見方を示しています。誰かがステレオのボリュームをささやき声まで絞ったような、スケールの小さいワインが多かったとも述べています。

ただ、これは裏を返せば、複数の村のブドウをブレンドして造る伝統的な「クラシック・バローロ」のスタイルが、かえって輝いた年だったとも言えるようです。

実際、G.B.ブルロット社は2022年、看板の単一畑「モンヴィリエーロ」の生産を見送り、収穫したブドウすべてを伝統的なクラシックブレンドに回すという決断をしています。その結果生まれたワインは、シナモンキャンディやルバーブ、野いちごを思わせる香りを持つ、フルボディでバランスの取れた仕上がりになったと高く評価されています。

「量が少ない年」だからこそ見えてくるもの

2022年のバローロは、生産量の面でも大きな影響を受けています。名門ピオ・チェザーレ社では、厳格な選果の結果、通常より約20%も生産量が減ったそうです。

それでも、こうした「造り手にとって難しい年」だからこそ、その哲学や技術がより鮮明に表れるとも言われています。

「かつてのバローロは、余裕とリスクを取れる余地があれば、あえて遅摘みをして偉大なワインを造ったものでした。でも今はもうそれが通用しません。熟すのがずっと早くなっていて、待つことに意味がなくなってきているんです」

そう語るのは、先ほども登場したファビオ・アレッサンドリア氏です。気候変動が進むなかで、「遅く摘むほど良い」という長年の常識そのものが、静かに変わりつつあるようです。

こんな年こそ、ネッビオーロの個性を味わってみませんか

バローロはもちろん特別な存在ですが、実はネッビオーロという品種そのものが、産地や造り手によっていろいろな表情を見せてくれる面白いブドウです。

Vino dell'Amicoでは、こうした造り手の哲学やヴィンテージごとの個性を踏まえてソムリエ藤本がワインをお選びする「ソムリエ藤本が選ぶおまかせセット」もご用意しています。

「バローロを飲んでみたいけれど、まず何を選べばいいかわからない」という方にもおすすめの内容になっているので、気になる方はぜひチェックしてみてください。

おわりに

2022年のバローロのニュースは、一見するとただの気候の話に見えて、実はワイン造りの哲学そのものが変わっていく瞬間を切り取った出来事だと感じます。

「暑い年は重い」「遅く摘むほど良い」といった、これまで当たり前とされてきた常識が、気候変動という現実の前で少しずつ書き換えられている。

そう考えながらグラスを傾けると、いつものバローロも、また違って見えてくるかもしれません。

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