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オリンピックの勝者に贈られた?イタリア最古のワインの一つが、新しい称号を手に入れた話

イタリアの南、長靴の「つま先」にあたるカラブリア州に、「チロ」という赤ワインがあります。実はこのワイン、2500年以上前から造られていると言われる、イタリアでもとりわけ古いワインの一つです。 そのチロが2025年7月、イタリアワインの格付けで最も上のランク「DOCG」を獲得しました。カラブリア州にとっては初めて、イタリア全体で見ても78番目のDOCGです。 2500年前、オリンピックの優勝者に贈られた? チロの物語は、紀元前8世紀までさかのぼります。ギリシャから来た人たちが、今のチロ・マリーナのあたりに町を作り、このあたり一帯を「エノトリア(ワインの地)」と呼びました。 ここで造られたワインは「クリミサ」と呼ばれ、地中海の広い地域で評判になったそうです。言い伝えでは、古代オリンピックで勝った選手にこのワインが贈られたとも言われています。本当にそうだったかを今から確かめる術はありませんが、それくらい昔から、この土地とワインが結びついていたということです。 まず「チロ」とはどんなワインか チロは、カラブリア州の看板品種「ガリオッポ」というブドウから造られる赤ワインです。今回DOCGになった「チロ・クラッシコ」では、このガリオッポを90%以上使うこと、そして国際的に有名なブドウ(カベルネやメルローなど)を一切使わないことが決められています。 熟成にも時間がかかります。最低36カ月、そのうち6カ月は木の樽で寝かせなければいけません。瓶詰めも、決められた産地の中でしかできません。 畑の作り方にも決まりがあります。1ヘクタールあたりのブドウの収穫量には上限があり、木の植える密度にも下限があります。量よりも質を大事にする造り方が、ルールとしてはっきり書かれているということです。 カラブリア州にとって、これが初めて チロは1969年、カラブリア州で最初のDOC(その下のランクの格付け)になったワインでした。それから半世紀以上たって、ようやく一番上のDOCGにたどり着いたことになります。 今回のDOCG認定を実現させたのは、「チロ・エ・メリッサ保護協会」という生産者団体です。会長のカルロ・シチリアーニ氏は、「これは何年もかけた、地域に根ざす努力と、厳しさと、先を見る計画が積み重なった結果だ」と話しています。そして「DOCGはゴールではなく、新しい段階の始まりだ」とも語っていて、畑の景観を守ることや、造り手の技術指導、産地の情報発信にこれからも力を入れていく方針だそうです。 ソムリエとして思うこと カラブリア州は、ピエモンテやトスカーナ、ヴェネトのような有名産地と比べると、まだまだ知名度が高いとは言えません。そんな産地が、派手なブランド力に頼らずイタリアワイン格付けの最高ランクを勝ち取ったことになります。 量を減らして質を追い求める。決められたブドウだけを使う。国際品種に頼らない。今回の規定を読むと、そうした選択を地域の生産者みんなが同じ基準として守れる体制を、時間をかけて作り上げてきたことがうかがえます。知名度ではなく、畑と醸造の中身で評価をつかみ取った。今回のDOCG認定の意味は、そこにあるのではないでしょうか。 おわりに 次にイタリアワインの棚で「チロ」という文字を見かけたら、そのボトルの向こうに、2500年以上前のオリンピックの選手や、今この瞬間も畑を守っている造り手たちのことを、少し思い出してみてください。

オリンピックの勝者に贈られた?イタリア最古のワインの一つが、新しい称号を手に入れた話

イタリアの南、長靴の「つま先」にあたるカラブリア州に、「チロ」という赤ワインがあります。実はこのワイン、2500年以上前から造られていると言われる、イタリアでもとりわけ古いワインの一つです。 そのチロが2025年7月、イタリアワインの格付けで最も上のランク「DOCG」を獲得しました。カラブリア州にとっては初めて、イタリア全体で見ても78番目のDOCGです。 2500年前、オリンピックの優勝者に贈られた? チロの物語は、紀元前8世紀までさかのぼります。ギリシャから来た人たちが、今のチロ・マリーナのあたりに町を作り、このあたり一帯を「エノトリア(ワインの地)」と呼びました。 ここで造られたワインは「クリミサ」と呼ばれ、地中海の広い地域で評判になったそうです。言い伝えでは、古代オリンピックで勝った選手にこのワインが贈られたとも言われています。本当にそうだったかを今から確かめる術はありませんが、それくらい昔から、この土地とワインが結びついていたということです。 まず「チロ」とはどんなワインか チロは、カラブリア州の看板品種「ガリオッポ」というブドウから造られる赤ワインです。今回DOCGになった「チロ・クラッシコ」では、このガリオッポを90%以上使うこと、そして国際的に有名なブドウ(カベルネやメルローなど)を一切使わないことが決められています。 熟成にも時間がかかります。最低36カ月、そのうち6カ月は木の樽で寝かせなければいけません。瓶詰めも、決められた産地の中でしかできません。 畑の作り方にも決まりがあります。1ヘクタールあたりのブドウの収穫量には上限があり、木の植える密度にも下限があります。量よりも質を大事にする造り方が、ルールとしてはっきり書かれているということです。 カラブリア州にとって、これが初めて チロは1969年、カラブリア州で最初のDOC(その下のランクの格付け)になったワインでした。それから半世紀以上たって、ようやく一番上のDOCGにたどり着いたことになります。 今回のDOCG認定を実現させたのは、「チロ・エ・メリッサ保護協会」という生産者団体です。会長のカルロ・シチリアーニ氏は、「これは何年もかけた、地域に根ざす努力と、厳しさと、先を見る計画が積み重なった結果だ」と話しています。そして「DOCGはゴールではなく、新しい段階の始まりだ」とも語っていて、畑の景観を守ることや、造り手の技術指導、産地の情報発信にこれからも力を入れていく方針だそうです。 ソムリエとして思うこと カラブリア州は、ピエモンテやトスカーナ、ヴェネトのような有名産地と比べると、まだまだ知名度が高いとは言えません。そんな産地が、派手なブランド力に頼らずイタリアワイン格付けの最高ランクを勝ち取ったことになります。 量を減らして質を追い求める。決められたブドウだけを使う。国際品種に頼らない。今回の規定を読むと、そうした選択を地域の生産者みんなが同じ基準として守れる体制を、時間をかけて作り上げてきたことがうかがえます。知名度ではなく、畑と醸造の中身で評価をつかみ取った。今回のDOCG認定の意味は、そこにあるのではないでしょうか。 おわりに 次にイタリアワインの棚で「チロ」という文字を見かけたら、そのボトルの向こうに、2500年以上前のオリンピックの選手や、今この瞬間も畑を守っている造り手たちのことを、少し思い出してみてください。

レストランの星で有名な「ミシュラン」が、今度はワインに点数をつけ始めた話

「ミシュラン」と聞くと、おいしいレストランに星をつけるガイドブックを思い浮かべる人が多いと思います。 そのミシュランが、2026年7月、フランスのブルゴーニュで、初めてワインそのものに点数をつける新しいランキングを発表しました。名前は「MICHELIN Grape Selection(ミシュラン・グレープ・セレクション)」。星の数ではなく「グレープ(ブドウの粒)」の数で評価する仕組みです。 どんなランキングなの? 評価は4段階です。一番上が「3グレープ」、その下に「2グレープ」「1グレープ」、そして「セレクション」と続きます。今回、ブルゴーニュの94の造り手が選ばれ、そのうち最高評価の「3グレープ」を獲得したのは9つの造り手でした。世界的に有名な「ロマネ・コンティ」を造る畑も、その一つです。 では、何を見て点数をつけたのでしょうか。ミシュランは5つのポイントを挙げています。 畑の土がしっかり手入れされているか ワインの造り方に失敗がないか その土地らしさが味に出ているか 酸味や渋みなど、味のバランスが良いか どの年に造っても、同じくらいおいしいか 調査の仕方も特別です。こっそり調べるのではなく、担当者が実際に畑やワイナリーを訪ねて、自分の目で確かめてから点数をつけたそうです。 なぜ今、ミシュランがワインを採点し始めたの? 実はミシュラン、2025年に「ワイン・アドヴォケイト」という、世界中で読まれている有名なワイン雑誌を買い取りました。もともとワインの点数づけで知られていた会社を仲間に入れたことで、今回のブルゴーニュのランキングが実現した、というわけです。ミシュランは今後、他の産地のワインにも点数をつけていく計画だそうです。 でも、すぐに「それ、おかしくない?」の声が上がった このニュースが発表されて数日後、意外な出来事が起きました。3グレープに選ばれたはずの、とても有名な造り手の一つが、「なぜうちがこの点数なのか、理由がわからない」とインターネット上で不満を発表したのです。 まわりからも、こんな疑問が出ています。 そもそもミシュランは、これまでレストランを評価してきた会社。畑やワイン造りのことを、本当にきちんと判断できるのだろうか? ミシュランは「土がきちんと手入れされているか」を評価の1つにしているのに、選ばれた94の造り手のうち、自然にやさしい農法(オーガニックなど)をしている造り手は、5分の1くらいしかいなかった。これは矛盾していないだろうか? ミシュランは、もともと点数をつけていた「ワイン・アドヴォケイト」という会社も持っている。自分たちに都合よく点数をつけているのでは?、という心配の声もある ソムリエとして思うこと ランキングやガイドブックは、知らない土地・知らない造り手に出会うための「入口」として、とても便利です。ミシュランの星がレストラン選びの手がかりになるのと同じように、今回のグレープの数も、ブルゴーニュという広くて奥深い産地を歩くための地図の一つにはなると思います。 ただ、地図はあくまで地図です。本当のおいしさは、実際に自分の舌で確かめてみないとわかりません。今回、有名な造り手自身が「点数の理由がわからない」と声を上げたことも、新しい仕組みが始まったばかりだからこそのやりとりなのだと思います。ミシュランのレストラン格付けも、長い年月をかけて今の信頼を積み上げてきました。ワインの格付けも、これから同じように育っていくのかもしれません。 おわりに ワインの世界には、昔からある古いランキング(畑の場所で決まる格付けなど)もあれば、今回のように、生まれたばかりの新しいランキングもあります。どちらが正しい・間違っているということではなく、それぞれ違う角度からワインを見せてくれる「ものさし」なのだと思います。 もしブルゴーニュのワインを見かけたら、「このワイン、グレープいくつだったのかな」と思い出してみるのも、ちょっと新しい楽しみ方かもしれません。

レストランの星で有名な「ミシュラン」が、今度はワインに点数をつけ始めた話

「ミシュラン」と聞くと、おいしいレストランに星をつけるガイドブックを思い浮かべる人が多いと思います。 そのミシュランが、2026年7月、フランスのブルゴーニュで、初めてワインそのものに点数をつける新しいランキングを発表しました。名前は「MICHELIN Grape Selection(ミシュラン・グレープ・セレクション)」。星の数ではなく「グレープ(ブドウの粒)」の数で評価する仕組みです。 どんなランキングなの? 評価は4段階です。一番上が「3グレープ」、その下に「2グレープ」「1グレープ」、そして「セレクション」と続きます。今回、ブルゴーニュの94の造り手が選ばれ、そのうち最高評価の「3グレープ」を獲得したのは9つの造り手でした。世界的に有名な「ロマネ・コンティ」を造る畑も、その一つです。 では、何を見て点数をつけたのでしょうか。ミシュランは5つのポイントを挙げています。 畑の土がしっかり手入れされているか ワインの造り方に失敗がないか その土地らしさが味に出ているか 酸味や渋みなど、味のバランスが良いか どの年に造っても、同じくらいおいしいか 調査の仕方も特別です。こっそり調べるのではなく、担当者が実際に畑やワイナリーを訪ねて、自分の目で確かめてから点数をつけたそうです。 なぜ今、ミシュランがワインを採点し始めたの? 実はミシュラン、2025年に「ワイン・アドヴォケイト」という、世界中で読まれている有名なワイン雑誌を買い取りました。もともとワインの点数づけで知られていた会社を仲間に入れたことで、今回のブルゴーニュのランキングが実現した、というわけです。ミシュランは今後、他の産地のワインにも点数をつけていく計画だそうです。 でも、すぐに「それ、おかしくない?」の声が上がった このニュースが発表されて数日後、意外な出来事が起きました。3グレープに選ばれたはずの、とても有名な造り手の一つが、「なぜうちがこの点数なのか、理由がわからない」とインターネット上で不満を発表したのです。 まわりからも、こんな疑問が出ています。 そもそもミシュランは、これまでレストランを評価してきた会社。畑やワイン造りのことを、本当にきちんと判断できるのだろうか? ミシュランは「土がきちんと手入れされているか」を評価の1つにしているのに、選ばれた94の造り手のうち、自然にやさしい農法(オーガニックなど)をしている造り手は、5分の1くらいしかいなかった。これは矛盾していないだろうか? ミシュランは、もともと点数をつけていた「ワイン・アドヴォケイト」という会社も持っている。自分たちに都合よく点数をつけているのでは?、という心配の声もある ソムリエとして思うこと ランキングやガイドブックは、知らない土地・知らない造り手に出会うための「入口」として、とても便利です。ミシュランの星がレストラン選びの手がかりになるのと同じように、今回のグレープの数も、ブルゴーニュという広くて奥深い産地を歩くための地図の一つにはなると思います。 ただ、地図はあくまで地図です。本当のおいしさは、実際に自分の舌で確かめてみないとわかりません。今回、有名な造り手自身が「点数の理由がわからない」と声を上げたことも、新しい仕組みが始まったばかりだからこそのやりとりなのだと思います。ミシュランのレストラン格付けも、長い年月をかけて今の信頼を積み上げてきました。ワインの格付けも、これから同じように育っていくのかもしれません。 おわりに ワインの世界には、昔からある古いランキング(畑の場所で決まる格付けなど)もあれば、今回のように、生まれたばかりの新しいランキングもあります。どちらが正しい・間違っているということではなく、それぞれ違う角度からワインを見せてくれる「ものさし」なのだと思います。 もしブルゴーニュのワインを見かけたら、「このワイン、グレープいくつだったのかな」と思い出してみるのも、ちょっと新しい楽しみ方かもしれません。

秋の夜長に。20%offワインセット、4つの飲み比べ

朝晩の空気が少しずつ変わってきました。夏のあいだ、冷やしてグイッと飲むワインが心地よかった方も、そろそろ違う楽しみ方をしたくなる頃ではないでしょうか。 今回は、20%offの数量限定ワインセットを4種類ご用意しました。ただの詰め合わせではなく、「今の季節に、こういう気分で飲んでほしい」という理由をひとつずつ持たせて組んでいます。長くワインと付き合ってこられた方にこそ、新しい発見があるように選びました。気になるセットがあれば、ぜひ一度お試しください。 ① 白ワインで巡る世界 3本セット(残り1セット) ¥6,260(税込・送料込/20%オフ) 「もう白ワインの季節じゃないでしょう」と思われるかもしれません。でも、残暑がまだ残るこの時期こそ、産地によってこんなに表情が違うのかと驚いてもらえる白を集めました。ルーマニア・ウンブリア・南イタリアと、飲み慣れた白ワインのイメージを一度リセットしていただきたくて組んだ3本です。 Viile Budureasca「Vine in Flames」Chardonnay 2023(ルーマニア・デアル=マーレ) 一部オーク樽で熟成した、トロピカルフルーツとバニラのニュアンスが心地よい辛口シャルドネ。 Sportoletti「Assisi Grechetto」2023(ウンブリア・アッシジ) アッシジの土着品種グレケットを単一で表現し続ける造り手の一本。ジャスミンや白桃の香りに、軽やかなミネラル感。 Valle dell'Asso「Salento Bianco Lenze」2024(プーリア州サレント) 低温発酵でフレッシュさを重視した、南イタリアらしい柑橘香の飲みやすい一本。 ② イタリア赤ワイン飲み比べ 3本セット ¥8,660(税込・送料込/20%オフ) 「イタリア赤ワイン」とひとくくりにされがちですが、造り手が変われば同じ品種でもここまで違うということを、改めて感じていただきたくて組みました。長年イタリアワインを飲んでこられた方にこそ、この違いを楽しんでほしいです。 Chiara Condello「Romagna Sangiovese Predappio」2022...

秋の夜長に。20%offワインセット、4つの飲み比べ

朝晩の空気が少しずつ変わってきました。夏のあいだ、冷やしてグイッと飲むワインが心地よかった方も、そろそろ違う楽しみ方をしたくなる頃ではないでしょうか。 今回は、20%offの数量限定ワインセットを4種類ご用意しました。ただの詰め合わせではなく、「今の季節に、こういう気分で飲んでほしい」という理由をひとつずつ持たせて組んでいます。長くワインと付き合ってこられた方にこそ、新しい発見があるように選びました。気になるセットがあれば、ぜひ一度お試しください。 ① 白ワインで巡る世界 3本セット(残り1セット) ¥6,260(税込・送料込/20%オフ) 「もう白ワインの季節じゃないでしょう」と思われるかもしれません。でも、残暑がまだ残るこの時期こそ、産地によってこんなに表情が違うのかと驚いてもらえる白を集めました。ルーマニア・ウンブリア・南イタリアと、飲み慣れた白ワインのイメージを一度リセットしていただきたくて組んだ3本です。 Viile Budureasca「Vine in Flames」Chardonnay 2023(ルーマニア・デアル=マーレ) 一部オーク樽で熟成した、トロピカルフルーツとバニラのニュアンスが心地よい辛口シャルドネ。 Sportoletti「Assisi Grechetto」2023(ウンブリア・アッシジ) アッシジの土着品種グレケットを単一で表現し続ける造り手の一本。ジャスミンや白桃の香りに、軽やかなミネラル感。 Valle dell'Asso「Salento Bianco Lenze」2024(プーリア州サレント) 低温発酵でフレッシュさを重視した、南イタリアらしい柑橘香の飲みやすい一本。 ② イタリア赤ワイン飲み比べ 3本セット ¥8,660(税込・送料込/20%オフ) 「イタリア赤ワイン」とひとくくりにされがちですが、造り手が変われば同じ品種でもここまで違うということを、改めて感じていただきたくて組みました。長年イタリアワインを飲んでこられた方にこそ、この違いを楽しんでほしいです。 Chiara Condello「Romagna Sangiovese Predappio」2022...

「今日は暑いから、ワインが安い」?アリゾナ発、気温がそのまま値段になるワイナリー

今年の8月も、日本各地で厳しい暑さが続いていますね。 そんな中、思わず「へえ!」と声が出てしまうニュースをアメリカから見つけました。暑さを嫌うどころか、逆手に取ってしまったワイナリーのお話です。 「今日は暑いから、ワインが安い」が本当に起きている アメリカ・アリゾナ州のAridus Wine Companyというワイナリーが、8月限定でユニークなプロモーションを行っています。 その名も、気温がそのままワインの値段になるセール。前日にフェニックス・スカイハーバー国際空港で観測された公式の最高気温(現地では華氏表示)の数値が、そのままワイン1ケース(12本)の価格(ドル)になるという仕組みです。摂氏に置き換えると、たとえば最高気温が約37℃の日は99ドル、約42℃の日は107ドルというイメージです。ワインクラブ会員でなくても、Willcox・Old Town Scottsdaleの2つのテイスティングルームで、赤・白を自由に組み合わせたケースを購入できます。 これは今年で3年連続の企画だそうで、創業者のScott Dahmer氏は「アリゾナの暑さを隠すのではなく、むしろ受け入れたかった。気温をチェックしながら、もっと暑くなれと応援するお客さんもいるんです」と語っています。 そもそもアリゾナは、どんなワイン産地なのか アリゾナとワインと聞くと、意外な組み合わせに感じる方も多いかもしれません。実はその歴史は17世紀後半まで遡り、当時の宣教師がミサ用にぶどうを植えたのが始まりなのだそうです。ただ、その後の禁酒法の影響で一度は産業として途絶えてしまいました。 本格的に動き出したのは1970〜80年代から。今ではアメリカ政府から正式な「ワイン産地」として認められたエリアがいくつかあり、Aridus Wine Companyの畑がある「Willcox(ウィルコックス)」もそのひとつです。実はアリゾナ産ぶどうの約3分の2が、このWillcox地区で栽培されているのだとか。 この10年ほどで生産者の数も3倍近くに増え、ワイン専門誌で高評価を得る造り手も出てきました。カリフォルニアのような老舗産地と比べるとまだ規模は小さいですが、着実に注目を集めている新興産地なんです。 標高1,500mの砂漠が育てるワイン Aridus Wine Companyが使うのは、Pearce近郊・標高約1,500mのChiricahua山麓にある自社畑(40エーカー)のぶどうのみ。栽培されている品種は、赤ならカベルネ・ソーヴィニヨンやマルベック、テンプラニーリョなど、白ならシャルドネやヴィオニエなど、実に幅広いラインナップです。 「暑い砂漠」と聞くと単調なイメージを持ってしまいますが、実際は標高の高さが夜間の気温をぐっと下げてくれるため、ぶどうがゆっくりと熟し、酸もしっかり残るのだそうです。砂漠の乾いた暑さと、山ならではの寒暖差。この組み合わせが、アリゾナならではの個性的なワインを生み出しています。 ソムリエとして感じたこと このプロモーションを知って面白いなと思ったのは、単なる話題作りではなく、「アリゾナのワインをもっと知ってもらいたい」という狙いがはっきりしている点です。天気予報を見ながらワイナリーを応援する、なんて発想はなかなか出てきません。 ワインというと、格付けや歴史ある産地の話が中心になりがちですが、こんなふうに土地の個性を楽しく伝える工夫があってもいいんだなと、あらためて感じさせられるニュースでした。 この夏にぴったりのワインセットもご用意しています 暑い夏は、よく冷やした泡や白ワインが恋しくなりますよね。ちょうど今、数量限定でご用意しているセットをご紹介します。 【夏の30%offセール・数量限定1セット】夏祭りの宵に。泡がはじけるノスタルジックサマーセット(4本) 数量限定1セットのみのご用意です。気になった方はお早めにチェックしてみてください。 おわりに...

「今日は暑いから、ワインが安い」?アリゾナ発、気温がそのまま値段になるワイナリー

今年の8月も、日本各地で厳しい暑さが続いていますね。 そんな中、思わず「へえ!」と声が出てしまうニュースをアメリカから見つけました。暑さを嫌うどころか、逆手に取ってしまったワイナリーのお話です。 「今日は暑いから、ワインが安い」が本当に起きている アメリカ・アリゾナ州のAridus Wine Companyというワイナリーが、8月限定でユニークなプロモーションを行っています。 その名も、気温がそのままワインの値段になるセール。前日にフェニックス・スカイハーバー国際空港で観測された公式の最高気温(現地では華氏表示)の数値が、そのままワイン1ケース(12本)の価格(ドル)になるという仕組みです。摂氏に置き換えると、たとえば最高気温が約37℃の日は99ドル、約42℃の日は107ドルというイメージです。ワインクラブ会員でなくても、Willcox・Old Town Scottsdaleの2つのテイスティングルームで、赤・白を自由に組み合わせたケースを購入できます。 これは今年で3年連続の企画だそうで、創業者のScott Dahmer氏は「アリゾナの暑さを隠すのではなく、むしろ受け入れたかった。気温をチェックしながら、もっと暑くなれと応援するお客さんもいるんです」と語っています。 そもそもアリゾナは、どんなワイン産地なのか アリゾナとワインと聞くと、意外な組み合わせに感じる方も多いかもしれません。実はその歴史は17世紀後半まで遡り、当時の宣教師がミサ用にぶどうを植えたのが始まりなのだそうです。ただ、その後の禁酒法の影響で一度は産業として途絶えてしまいました。 本格的に動き出したのは1970〜80年代から。今ではアメリカ政府から正式な「ワイン産地」として認められたエリアがいくつかあり、Aridus Wine Companyの畑がある「Willcox(ウィルコックス)」もそのひとつです。実はアリゾナ産ぶどうの約3分の2が、このWillcox地区で栽培されているのだとか。 この10年ほどで生産者の数も3倍近くに増え、ワイン専門誌で高評価を得る造り手も出てきました。カリフォルニアのような老舗産地と比べるとまだ規模は小さいですが、着実に注目を集めている新興産地なんです。 標高1,500mの砂漠が育てるワイン Aridus Wine Companyが使うのは、Pearce近郊・標高約1,500mのChiricahua山麓にある自社畑(40エーカー)のぶどうのみ。栽培されている品種は、赤ならカベルネ・ソーヴィニヨンやマルベック、テンプラニーリョなど、白ならシャルドネやヴィオニエなど、実に幅広いラインナップです。 「暑い砂漠」と聞くと単調なイメージを持ってしまいますが、実際は標高の高さが夜間の気温をぐっと下げてくれるため、ぶどうがゆっくりと熟し、酸もしっかり残るのだそうです。砂漠の乾いた暑さと、山ならではの寒暖差。この組み合わせが、アリゾナならではの個性的なワインを生み出しています。 ソムリエとして感じたこと このプロモーションを知って面白いなと思ったのは、単なる話題作りではなく、「アリゾナのワインをもっと知ってもらいたい」という狙いがはっきりしている点です。天気予報を見ながらワイナリーを応援する、なんて発想はなかなか出てきません。 ワインというと、格付けや歴史ある産地の話が中心になりがちですが、こんなふうに土地の個性を楽しく伝える工夫があってもいいんだなと、あらためて感じさせられるニュースでした。 この夏にぴったりのワインセットもご用意しています 暑い夏は、よく冷やした泡や白ワインが恋しくなりますよね。ちょうど今、数量限定でご用意しているセットをご紹介します。 【夏の30%offセール・数量限定1セット】夏祭りの宵に。泡がはじけるノスタルジックサマーセット(4本) 数量限定1セットのみのご用意です。気になった方はお早めにチェックしてみてください。 おわりに...

ワインの世界地図が変わる!? ボルドーの猛暑とフィンランドの葡萄畑

こんにちは、ソムリエの藤本です。 今日は少し驚くニュースを持ってきました。フランスの著名な産地「ボルドー」が異常な暑さに見舞われている一方で、なんと「フィンランド」という寒冷な国でワインづくりが始まっているんです。地球温暖化によって、世界のワイン地図が今まさに塗り替えられようとしています。今日はその実態を、専門用語もかみ砕きながらお届けします。 ボルドーで46℃。開花期を襲った異常高温 2026年6月21日、フランス・ボルドーの気温は46℃に達しました。真夏の炎天下よりも過酷な数字です。しかもこれ、収穫の3週間も前、ぶどうの花が咲く最も重要な時期に起きた出来事でした。 ぶどうは開花のあと、うまく受粉(花粉がめしべに付くこと)すると実がなります。しかし受粉には15℃前後の適温が必要です。それにもかかわらず46℃という猛烈な高温にさらされると、花はうまく実を結べず、そのまま枯れてしまいます。これを「花振るい(はなぶるい)」と呼びます。咲いた花が実を結ばずに終わってしまう、生産者にとっては深刻な結実不良です。 日なたにあった房(ふさ)の表面温度は、なんと約61℃にまで達したそうです。これはもはや日焼けの域を超え、細胞そのものが破壊されるレベル。生き残った果実も酸味や色素が失われ、本来の味わいを出しにくくなります。 上のグラフは、ボルドーの猛暑がいかに「適温」を超えていたかを示したものです。受粉に適した15℃に対して、実際の気温は46℃、房の表面温度は61℃。数字で並べると、その乖離の大きさに驚かされます。 一方フィンランドでは、新たな葡萄畑が誕生していた 同じ地球温暖化が、まったく逆の出来事も引き起こしています。舞台はロシア国境に近い、フィンランドの「南カレリア」という土地。北緯61度という、日本の感覚でいえばかなり北方にある場所です。 ここでカリ・コスケラ氏が「コトラ・ヴィンヤード」という葡萄畑を開いたのは2020年のこと。フィンランドは冬になるとマイナス30℃にも達する厳寒の国です。一般的なワイン用葡萄(ヨーロッパ系品種)では、寒さに耐えきれず枯死してしまいます。 そこでコスケラ氏が選んだのは、アメリカ・ミネソタ大学が長年かけて開発した「耐寒性に優れた交配品種」でした。 マルケット(赤):マイナス34℃まで耐える。チェリーのような香りを持つ本格的な赤ワインに ラクレセント(白):マイナス38℃まで耐える。あんずの香りとリースリングを思わせる爽やかな酸味 セントペパン(白):マイナス32℃まで耐える。マスカットのような華やかな香りの白ワインに 上のグラフの通り、一般的な葡萄がマイナス20℃前後で越冬の限界を迎えるのに対し、これらの品種はそれをはるかに上回る耐寒性を持っています。フィンランド政府もEU(欧州連合)に対し、正式なワイン生産国としての認定を申請しているそうです。 世界のワイン地図は、今後どう変わるのか フランスでは、この30年で収穫時期が2〜3週間も前倒しになっています。ボルドーの主要品種「メルロー」は暑さに弱く、アルコール度数が上がりすぎる傾向があるため、より晩熟な「カベルネ」種への植え替えを進める生産者も増えてきました。 さらに厳しい予測もあります。仮に地球の気温が2℃上昇した場合、南欧やアメリカ・カリフォルニアの低地に位置する産地の最大90%が、今世紀末までに経済的な生産維持が困難になるとの試算もあるのです。 その一方で、イギリスでは2004年比で葡萄畑の面積が4倍(400%)に拡大し、シャンパーニュの大手メゾンまでもがイギリスの畑への投資を始めています。まさに「暑さから逃れるように産地が北上し、涼しい土地で新たなワインが生まれる」時代が、現実のものとなりつつあります。 涼を求めるなら、白ワインという選択 ボルドーの記事を読んでいて、ふと思いました。こんな異常な暑さの夏こそ、キリッと冷やした白ワインで涼を取るのが一番だと。 そこで、当店より数量限定でご用意している一本をご紹介します。 【夏の30%offセール・数量限定1セット】 縁側で涼む、白ワインで辿る夏の記憶セット(3本) Gini「Soave Classico DOC」、Menti Giovanni「Riva Arsiglia Gambellara...

ワインの世界地図が変わる!? ボルドーの猛暑とフィンランドの葡萄畑

こんにちは、ソムリエの藤本です。 今日は少し驚くニュースを持ってきました。フランスの著名な産地「ボルドー」が異常な暑さに見舞われている一方で、なんと「フィンランド」という寒冷な国でワインづくりが始まっているんです。地球温暖化によって、世界のワイン地図が今まさに塗り替えられようとしています。今日はその実態を、専門用語もかみ砕きながらお届けします。 ボルドーで46℃。開花期を襲った異常高温 2026年6月21日、フランス・ボルドーの気温は46℃に達しました。真夏の炎天下よりも過酷な数字です。しかもこれ、収穫の3週間も前、ぶどうの花が咲く最も重要な時期に起きた出来事でした。 ぶどうは開花のあと、うまく受粉(花粉がめしべに付くこと)すると実がなります。しかし受粉には15℃前後の適温が必要です。それにもかかわらず46℃という猛烈な高温にさらされると、花はうまく実を結べず、そのまま枯れてしまいます。これを「花振るい(はなぶるい)」と呼びます。咲いた花が実を結ばずに終わってしまう、生産者にとっては深刻な結実不良です。 日なたにあった房(ふさ)の表面温度は、なんと約61℃にまで達したそうです。これはもはや日焼けの域を超え、細胞そのものが破壊されるレベル。生き残った果実も酸味や色素が失われ、本来の味わいを出しにくくなります。 上のグラフは、ボルドーの猛暑がいかに「適温」を超えていたかを示したものです。受粉に適した15℃に対して、実際の気温は46℃、房の表面温度は61℃。数字で並べると、その乖離の大きさに驚かされます。 一方フィンランドでは、新たな葡萄畑が誕生していた 同じ地球温暖化が、まったく逆の出来事も引き起こしています。舞台はロシア国境に近い、フィンランドの「南カレリア」という土地。北緯61度という、日本の感覚でいえばかなり北方にある場所です。 ここでカリ・コスケラ氏が「コトラ・ヴィンヤード」という葡萄畑を開いたのは2020年のこと。フィンランドは冬になるとマイナス30℃にも達する厳寒の国です。一般的なワイン用葡萄(ヨーロッパ系品種)では、寒さに耐えきれず枯死してしまいます。 そこでコスケラ氏が選んだのは、アメリカ・ミネソタ大学が長年かけて開発した「耐寒性に優れた交配品種」でした。 マルケット(赤):マイナス34℃まで耐える。チェリーのような香りを持つ本格的な赤ワインに ラクレセント(白):マイナス38℃まで耐える。あんずの香りとリースリングを思わせる爽やかな酸味 セントペパン(白):マイナス32℃まで耐える。マスカットのような華やかな香りの白ワインに 上のグラフの通り、一般的な葡萄がマイナス20℃前後で越冬の限界を迎えるのに対し、これらの品種はそれをはるかに上回る耐寒性を持っています。フィンランド政府もEU(欧州連合)に対し、正式なワイン生産国としての認定を申請しているそうです。 世界のワイン地図は、今後どう変わるのか フランスでは、この30年で収穫時期が2〜3週間も前倒しになっています。ボルドーの主要品種「メルロー」は暑さに弱く、アルコール度数が上がりすぎる傾向があるため、より晩熟な「カベルネ」種への植え替えを進める生産者も増えてきました。 さらに厳しい予測もあります。仮に地球の気温が2℃上昇した場合、南欧やアメリカ・カリフォルニアの低地に位置する産地の最大90%が、今世紀末までに経済的な生産維持が困難になるとの試算もあるのです。 その一方で、イギリスでは2004年比で葡萄畑の面積が4倍(400%)に拡大し、シャンパーニュの大手メゾンまでもがイギリスの畑への投資を始めています。まさに「暑さから逃れるように産地が北上し、涼しい土地で新たなワインが生まれる」時代が、現実のものとなりつつあります。 涼を求めるなら、白ワインという選択 ボルドーの記事を読んでいて、ふと思いました。こんな異常な暑さの夏こそ、キリッと冷やした白ワインで涼を取るのが一番だと。 そこで、当店より数量限定でご用意している一本をご紹介します。 【夏の30%offセール・数量限定1セット】 縁側で涼む、白ワインで辿る夏の記憶セット(3本) Gini「Soave Classico DOC」、Menti Giovanni「Riva Arsiglia Gambellara...

シチリア、100日間の収穫が始まった。2024年の干ばつを越えて

西シチリアから、100日間の収穫がスタート 先週、シチリア島西部で2026年の収穫が始まりました。早熟の白ブドウ品種から始まり、そこから西海岸、内陸部、イブレイ高原、メッシーナ海峡沿岸、周辺の島々を経て、最後はエトナへ。エトナの収穫が終わるのは11月上旬になる見込みで、収穫期間はおよそ100日間に及びます。 これほど長い収穫期間を持つ産地は、ヨーロッパの他のワイン産地にはありません。シチリアは単一の「産地」というより、70種以上の土着品種と、驚くほど多様な気候・地質を抱えた「島の形をした一つの大陸」と表現されるほどです。 2年前の記憶:2024年の深刻な干ばつ この明るいニュースの背景には、2年前の苦い経験があります。2024年、シチリアは約20年で最悪とされる干ばつに見舞われました。イタリア政府は同年5月に非常事態を宣言し、90を超える自治体で水の使用制限が敷かれました。農業団体コルディレッティは、最初の7ヶ月間だけで農業被害27億ユーロ、小麦の収穫量は半分以上減少したと発表しています。 研究機関World Weather Attributionの分析では、この干ばつの主因は気候変動にあるとされました。生産者は、ブドウが熟すのを待たず、最大10日ほど早く収穫せざるを得なかったといいます。 記事はもう一つ、あまり報じられていない事実にも触れています。シチリアの水道網は、2022年時点で供給する水の約52%が漏水で失われていたというイタリア国家統計局(ISTAT)のデータです。干ばつという気象の問題の裏には、水インフラの管理という行政的な課題も重なっていたことになります。 2026年、一転して明るい兆し こうした背景を踏まえると、2026年の状況は文字通りの「一息」です。生産者団体Assovini Sicilia副会長のピエトロ・ポッラーラ氏は、雨の多かった冬と春のおかげで土壌の水分が十分に回復し、7月の猛暑もその蓄えのおかげで植物がうまく乗り切れたと説明しています。「フレッシュさとエレガンスのバランスが取れた、香り高いワインになる高品質な収穫を見込んでいる」とのことです。 世界が注目し始めている、シチリアの伝統的な知恵 ここからが、この記事で一番興味深い部分です。シチリアのブドウ栽培の多くは、伝統的に灌漑を行いません。これは環境に配慮したライフスタイルの選択ではなく、何世紀もの間、単純に他に方法がなかったからです。その結果、シチリアには「水を使わずにブドウを育てる」という実践的な知恵が蓄積されており、これを今、ボルドーやナパ、ラングドックといった名産地が、専門家を雇ってまで一から学び直そうとしているというのです。 その象徴が、パンテッレリア島の「アルベレッロ(株仕立てのブッシュヴァイン)」です。地面に20cmほどの窪みを掘り、その中に苗を植える栽培法で、絶え間なく吹く風から株を守り、土壌の水分を保持し、わずかな降雨も逃さず捉えます。この栽培法は2014年、UNESCOの無形文化遺産に登録されました。農業技術がこの栄誉を受けたのは史上初めてのことです。現在も島の約5,000人がこの方法でブドウを栽培しています。 同じ理由から、ノート地区でも同様の栽培法が使われています。生産者Zisolaの技術責任者ジオナータ・プリニャーミ氏は、「棚などの構造物がないことで、涼しい海風や気流が自由に循環できる」と説明します。棚仕立ては熱をため込み、風の流れを妨げてしまうためです。 ホメロスまで遡る、乾燥農法の記録 記事はさらに驚くべき指摘をしています。『オデュッセイア』第9巻で、ホメロスはキュクロプスの土地についてこう描写しています――彼らは種も蒔かず耕しもしないが、小麦も大麦もブドウも、ゼウスの雨だけを頼りに自然に実る、と。これは技術的に読み解けば、灌漑を行わない地中海式農業の描写であり、乾燥農法について書かれた最古の記録である可能性があるといいます。ギリシャ神話の伝承では、キュクロプスの住む土地はシチリア、それもエトナ山の麓とされてきました。 意外な偶然:映画『The Odyssey』とロケ地の一致 さらに面白い偶然があります。クリストファー・ノーラン監督の新作映画『The Odyssey』が海外で公開され、同監督のキャリアで最大級のオープニング興行収入を記録しました。撮影は91日間、70mm IMAXで行われ、主要なロケ地の一つが西シチリアのエガディ諸島・ファヴィニャーナ島、そしてアイオリア諸島だったといいます。 このロケ地は、まさに今回収穫が始まった西シチリア――グリッロの産地であり、マルサラ発祥の地――そして、マルヴァジアの産地として知られるサリーナ島(アイオリア諸島)と重なります。記事は「撮影91日間、収穫100日間」という数字の一致にも触れています。ホメロスが描いた『オデュッセイア』の舞台そのものが、今まさにブドウが収穫されている土地であるというのは、なんとも興味深い巡り合わせです。 品種ごとの手応え 2026年の収穫について、各地の生産者からは以下のようなコメントが寄せられています。 グリッロ(西シチリア、19世紀に生まれたシチリア産の交配品種):厳しい気候条件に耐える力のある品種として評価。ネロ・ダヴォラ、ペリコーネも生育良好(Feudo Stagnone & Cantine...

シチリア、100日間の収穫が始まった。2024年の干ばつを越えて

西シチリアから、100日間の収穫がスタート 先週、シチリア島西部で2026年の収穫が始まりました。早熟の白ブドウ品種から始まり、そこから西海岸、内陸部、イブレイ高原、メッシーナ海峡沿岸、周辺の島々を経て、最後はエトナへ。エトナの収穫が終わるのは11月上旬になる見込みで、収穫期間はおよそ100日間に及びます。 これほど長い収穫期間を持つ産地は、ヨーロッパの他のワイン産地にはありません。シチリアは単一の「産地」というより、70種以上の土着品種と、驚くほど多様な気候・地質を抱えた「島の形をした一つの大陸」と表現されるほどです。 2年前の記憶:2024年の深刻な干ばつ この明るいニュースの背景には、2年前の苦い経験があります。2024年、シチリアは約20年で最悪とされる干ばつに見舞われました。イタリア政府は同年5月に非常事態を宣言し、90を超える自治体で水の使用制限が敷かれました。農業団体コルディレッティは、最初の7ヶ月間だけで農業被害27億ユーロ、小麦の収穫量は半分以上減少したと発表しています。 研究機関World Weather Attributionの分析では、この干ばつの主因は気候変動にあるとされました。生産者は、ブドウが熟すのを待たず、最大10日ほど早く収穫せざるを得なかったといいます。 記事はもう一つ、あまり報じられていない事実にも触れています。シチリアの水道網は、2022年時点で供給する水の約52%が漏水で失われていたというイタリア国家統計局(ISTAT)のデータです。干ばつという気象の問題の裏には、水インフラの管理という行政的な課題も重なっていたことになります。 2026年、一転して明るい兆し こうした背景を踏まえると、2026年の状況は文字通りの「一息」です。生産者団体Assovini Sicilia副会長のピエトロ・ポッラーラ氏は、雨の多かった冬と春のおかげで土壌の水分が十分に回復し、7月の猛暑もその蓄えのおかげで植物がうまく乗り切れたと説明しています。「フレッシュさとエレガンスのバランスが取れた、香り高いワインになる高品質な収穫を見込んでいる」とのことです。 世界が注目し始めている、シチリアの伝統的な知恵 ここからが、この記事で一番興味深い部分です。シチリアのブドウ栽培の多くは、伝統的に灌漑を行いません。これは環境に配慮したライフスタイルの選択ではなく、何世紀もの間、単純に他に方法がなかったからです。その結果、シチリアには「水を使わずにブドウを育てる」という実践的な知恵が蓄積されており、これを今、ボルドーやナパ、ラングドックといった名産地が、専門家を雇ってまで一から学び直そうとしているというのです。 その象徴が、パンテッレリア島の「アルベレッロ(株仕立てのブッシュヴァイン)」です。地面に20cmほどの窪みを掘り、その中に苗を植える栽培法で、絶え間なく吹く風から株を守り、土壌の水分を保持し、わずかな降雨も逃さず捉えます。この栽培法は2014年、UNESCOの無形文化遺産に登録されました。農業技術がこの栄誉を受けたのは史上初めてのことです。現在も島の約5,000人がこの方法でブドウを栽培しています。 同じ理由から、ノート地区でも同様の栽培法が使われています。生産者Zisolaの技術責任者ジオナータ・プリニャーミ氏は、「棚などの構造物がないことで、涼しい海風や気流が自由に循環できる」と説明します。棚仕立ては熱をため込み、風の流れを妨げてしまうためです。 ホメロスまで遡る、乾燥農法の記録 記事はさらに驚くべき指摘をしています。『オデュッセイア』第9巻で、ホメロスはキュクロプスの土地についてこう描写しています――彼らは種も蒔かず耕しもしないが、小麦も大麦もブドウも、ゼウスの雨だけを頼りに自然に実る、と。これは技術的に読み解けば、灌漑を行わない地中海式農業の描写であり、乾燥農法について書かれた最古の記録である可能性があるといいます。ギリシャ神話の伝承では、キュクロプスの住む土地はシチリア、それもエトナ山の麓とされてきました。 意外な偶然:映画『The Odyssey』とロケ地の一致 さらに面白い偶然があります。クリストファー・ノーラン監督の新作映画『The Odyssey』が海外で公開され、同監督のキャリアで最大級のオープニング興行収入を記録しました。撮影は91日間、70mm IMAXで行われ、主要なロケ地の一つが西シチリアのエガディ諸島・ファヴィニャーナ島、そしてアイオリア諸島だったといいます。 このロケ地は、まさに今回収穫が始まった西シチリア――グリッロの産地であり、マルサラ発祥の地――そして、マルヴァジアの産地として知られるサリーナ島(アイオリア諸島)と重なります。記事は「撮影91日間、収穫100日間」という数字の一致にも触れています。ホメロスが描いた『オデュッセイア』の舞台そのものが、今まさにブドウが収穫されている土地であるというのは、なんとも興味深い巡り合わせです。 品種ごとの手応え 2026年の収穫について、各地の生産者からは以下のようなコメントが寄せられています。 グリッロ(西シチリア、19世紀に生まれたシチリア産の交配品種):厳しい気候条件に耐える力のある品種として評価。ネロ・ダヴォラ、ペリコーネも生育良好(Feudo Stagnone & Cantine...