ヨーロッパの銘醸地が消える?気候変動で急浮上する「北海道」という新産地

北海道 ワイン産地 マップ

最近、少し衝撃的なニュースが目に留まりました。

2023年に欧州の複数の大学が発表した研究によると、このペースで温暖化が進めば、今世紀末までにヨーロッパの伝統的なワイン産地の約55%が失われる可能性があるというのです。

ポルトガル、イタリア、ギリシャといった、私たちが「ワインの本場」として親しんできた土地が、地図から消えるかもしれない。そんな話です。

そして、その裏側で今、静かに、しかし急速に注目を集めているのが「北海道」なんです。今回はソムリエ目線で、このニュースの背景を掘り下げてみたいと思います。

ワイン産地は、すでに「北へ」動き始めている

この研究チームによると、最も深刻な温暖化シナリオでは、ワイン栽培に適した気候帯が北へ約900kmシフトすると予測されています。

実感としても、すでに変化は起きています。わずか20年前まで、ヨーロッパでワイン用ぶどう栽培が可能な北限は、フランス・シャンパーニュ地方あたりとされていました。それが今では、中部イングランドやスウェーデン南部にまで北上しているそうです。

フランス南西部のボルドーでは、「あと10〜20年で、この土地固有のぶどうは作れなくなるだろう」という声も出ているといいます。カリフォルニアのナパ・ヴァレーも年々厳しさを増していて、すでにオレゴン州やカナダのブリティッシュコロンビア州へ拠点を移す生産者もいるとか。オーストラリアでも、暑くなりすぎたハンター・ヴァレーから、南のタスマニア島へ生産者が集まり始めているそうです。

そして、その「北へ900km」という予測線の緯度上に位置しているのが、ほかでもない北海道なんです。

北海道のワイナリー数、この数年で急増中

北海道は、1999年まではワイナリーが10ヶ所以下しかありませんでした。しかし2000年代に入ってから増加が加速し、2017年8月には33ヶ所に。そして今、その数は76ヶ所にまで達しています。

わずか6年前には42ヶ所だったことを考えると、この短期間での伸びがいかに急激かがわかります。ブドウ生産量も日本一で、いまや北海道は日本最大のワイン産地になりました。

背景には、単なる「ブーム」ではない、気候面での裏付けがあります。国の研究機関(農研機構)の解析によると、1998年を境に北海道を含む北日本で気候シフトが起き、それ以降、余市町や三笠市など主要産地の4〜10月の平均気温が、世界のピノ・ノワール産地とされる「14〜16℃」の適温域を安定的に上回るようになったそうです。実際、北海道全体のピノ・ノワール栽培面積は、2010年の16.8haから2020年には40.1haへと、10年で約2.5倍に拡大しています。

ブルゴーニュの名門「ド・モンティーユ」が、函館に畑を拓いた

函館 ワイナリー

この北海道の変化を象徴する出来事のひとつが、フランス・ブルゴーニュに300年の歴史を持つ名門ワイナリー「ドメーヌ・ド・モンティーユ」の函館進出です。

当主のエティエンヌ・ド・モンティーユ氏は2015年に来日し、北海道や長野のワインをテイスティングして衝撃を受けたことがきっかけで、日本でのワイン造りを決意したそうです。気候変動を見据えて「100年先まで続くワイン造り」ができる冷涼な土地を探し、北海道、長野、青森、山形を候補に検討した末、2016年に函館でのプロジェクト始動を決定しました。

2019年に函館市桔梗地区で植樹を開始し、敷地面積はブルゴーニュの自社畑とほぼ同じ37ha(サッカーコート約52面分)にまで拡大。2023年秋にワイナリーが竣工し、2025年12月には函館産ぶどうを使った初ヴィンテージ(2023年産)がついにリリースされました。外国資本によるワイナリーとしては、日本初のケースだそうです。

YOSHIKI氏も、余市でワイン造りに参入

もうひとつ話題になっているのが、X JAPANのYOSHIKI氏の動きです。

2025年5月、北海道・余市町で調印式が行われ、自身のワインブランド「Y by YOSHIKI」として、日本を代表する醸造家・曽我貴彦氏(ドメーヌ・タカヒコ)の監修のもと、本格的なワイン造りに乗り出すことが発表されました。0.4haの畑にピノ・ノワールの苗木1,191本を自ら植樹し、初収穫は2027年、リリースは早ければ2028年を予定しているそうです。

YOSHIKI氏は「北海道が良いワインを造るだけでなく、将来の輸出産業のひとつになってほしい」と語っていて、単なる趣味の域を超えて、日本ワインを世界に発信していくプロジェクトとして位置づけられています。

山梨は苦戦、北海道と長野は伸びる ── 国内でも進む「ワイン前線」の北上

山梨から北海道へのワイン前線北上イメージ

実はこの北上現象、日本国内でも起きています。

国内最大の産地である山梨県では、醸造用ぶどうの生産量が2014年の7,356tから2021年には6,136tへと減少しました。一方、長野県は3,495tから5,677tへ、北海道は3,305tから4,339tへと、いずれも大きく伸びています。

山梨県で起きているのは、夏の成熟期の高温によって、ぶどうの色づきに必要なアントシアニンの合成が阻害される「着色不良」や、日焼けの被害だそうです。反射シートを敷いたり、樹皮を環状に剥ぎ取って果実に栄養を集中させたりと、現場では様々な適応策が試みられています。

イタリアワインを扱う立場から思うこと

こうして北海道の躍進を追いかけていると、複雑な気持ちにもなります。北海道にとっては大きなチャンスである一方、その裏側には、私たちが愛してやまないヨーロッパの銘醸地が直面している危機があるからです。

実際、以前このブログでもお伝えした通り、フランスのシャンパーニュ地方は記録的な熱波と干ばつに見舞われ、収穫量が例年より1ヶ月も早まる事態になりました。イタリアでもエトナ山麓のワインがDOCGに昇格するなど、火山性土壌や標高の高さが生む「冷涼さ」が、これまで以上に価値を持つ時代になってきています。

産地が動く、品種が変わる、造り手が新天地を求める。ワインの世界は今、大きな地殻変動のただ中にあるのだと思います。北海道の挑戦は、その変化を体現するひとつの物語として、これからも追いかけていきたいテーマです。

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おわりに

「ワインの産地」というと、つい固定されたものだと思いがちですが、実際には気候とともに、少しずつ、しかし確実に動いているのだと今回改めて感じました。

北海道が10年後、20年後にどんな存在になっているのか。そして、私たちが慣れ親しんだヨーロッパの銘醸地がどう変化に適応していくのか。どちらも、ワイン好きとしてこれからも見守っていきたいと思います。

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