シチリア、100日間の収穫が始まった。2024年の干ばつを越えて

西シチリアから、100日間の収穫がスタート

先週、シチリア島西部で2026年の収穫が始まりました。早熟の白ブドウ品種から始まり、そこから西海岸、内陸部、イブレイ高原、メッシーナ海峡沿岸、周辺の島々を経て、最後はエトナへ。エトナの収穫が終わるのは11月上旬になる見込みで、収穫期間はおよそ100日間に及びます。

これほど長い収穫期間を持つ産地は、ヨーロッパの他のワイン産地にはありません。シチリアは単一の「産地」というより、70種以上の土着品種と、驚くほど多様な気候・地質を抱えた「島の形をした一つの大陸」と表現されるほどです。

2年前の記憶:2024年の深刻な干ばつ

この明るいニュースの背景には、2年前の苦い経験があります。2024年、シチリアは約20年で最悪とされる干ばつに見舞われました。イタリア政府は同年5月に非常事態を宣言し、90を超える自治体で水の使用制限が敷かれました。農業団体コルディレッティは、最初の7ヶ月間だけで農業被害27億ユーロ、小麦の収穫量は半分以上減少したと発表しています。

研究機関World Weather Attributionの分析では、この干ばつの主因は気候変動にあるとされました。生産者は、ブドウが熟すのを待たず、最大10日ほど早く収穫せざるを得なかったといいます。

記事はもう一つ、あまり報じられていない事実にも触れています。シチリアの水道網は、2022年時点で供給する水の約52%が漏水で失われていたというイタリア国家統計局(ISTAT)のデータです。干ばつという気象の問題の裏には、水インフラの管理という行政的な課題も重なっていたことになります。

2026年、一転して明るい兆し

こうした背景を踏まえると、2026年の状況は文字通りの「一息」です。生産者団体Assovini Sicilia副会長のピエトロ・ポッラーラ氏は、雨の多かった冬と春のおかげで土壌の水分が十分に回復し、7月の猛暑もその蓄えのおかげで植物がうまく乗り切れたと説明しています。「フレッシュさとエレガンスのバランスが取れた、香り高いワインになる高品質な収穫を見込んでいる」とのことです。

世界が注目し始めている、シチリアの伝統的な知恵

ここからが、この記事で一番興味深い部分です。シチリアのブドウ栽培の多くは、伝統的に灌漑を行いません。これは環境に配慮したライフスタイルの選択ではなく、何世紀もの間、単純に他に方法がなかったからです。その結果、シチリアには「水を使わずにブドウを育てる」という実践的な知恵が蓄積されており、これを今、ボルドーやナパ、ラングドックといった名産地が、専門家を雇ってまで一から学び直そうとしているというのです。

その象徴が、パンテッレリア島の「アルベレッロ(株仕立てのブッシュヴァイン)」です。地面に20cmほどの窪みを掘り、その中に苗を植える栽培法で、絶え間なく吹く風から株を守り、土壌の水分を保持し、わずかな降雨も逃さず捉えます。この栽培法は2014年、UNESCOの無形文化遺産に登録されました。農業技術がこの栄誉を受けたのは史上初めてのことです。現在も島の約5,000人がこの方法でブドウを栽培しています。

同じ理由から、ノート地区でも同様の栽培法が使われています。生産者Zisolaの技術責任者ジオナータ・プリニャーミ氏は、「棚などの構造物がないことで、涼しい海風や気流が自由に循環できる」と説明します。棚仕立ては熱をため込み、風の流れを妨げてしまうためです。

ホメロスまで遡る、乾燥農法の記録

記事はさらに驚くべき指摘をしています。『オデュッセイア』第9巻で、ホメロスはキュクロプスの土地についてこう描写しています――彼らは種も蒔かず耕しもしないが、小麦大麦もブドウも、ゼウスの雨だけを頼りに自然に実る、と。これは技術的に読み解けば、灌漑を行わない地中海式農業の描写であり、乾燥農法について書かれた最古の記録である可能性があるといいます。ギリシャ神話の伝承では、キュクロプスの住む土地はシチリア、それもエトナ山の麓とされてきました。

意外な偶然:映画『The Odyssey』とロケ地の一致

さらに面白い偶然があります。クリストファー・ノーラン監督の新作映画『The Odyssey』が海外で公開され、同監督のキャリアで最大級のオープニング興行収入を記録しました。撮影は91日間、70mm IMAXで行われ、主要なロケ地の一つが西シチリアのエガディ諸島・ファヴィニャーナ島、そしてアイオリア諸島だったといいます。

このロケ地は、まさに今回収穫が始まった西シチリア――グリッロの産地であり、マルサラ発祥の地――そして、マルヴァジアの産地として知られるサリーナ島(アイオリア諸島)と重なります。記事は「撮影91日間、収穫100日間」という数字の一致にも触れています。ホメロスが描いた『オデュッセイア』の舞台そのものが、今まさにブドウが収穫されている土地であるというのは、なんとも興味深い巡り合わせです。

品種ごとの手応え

2026年の収穫について、各地の生産者からは以下のようなコメントが寄せられています。

  • グリッロ(西シチリア、19世紀に生まれたシチリア産の交配品種):厳しい気候条件に耐える力のある品種として評価。ネロ・ダヴォラ、ペリコーネも生育良好(Feudo Stagnone & Cantine Birgi)
  • フラッパート(ラグーザ丘陵):暑さへの耐性を見せながら、「エレガントで時代に合った、複雑な赤」に育ちつつある(Valle dell'Acate)。軽やかで冷やして飲める地中海系の赤ワインは、今まさに市場が求めているカテゴリーだと記事は指摘しています
  • ジビッボ(パンテッレリア島):温暖化の影響下でも、むしろ「糖と酸のバランスが良い」状態(Cantine Pellegrino)
  • ネレッロ・マスカレーゼ、カリカンテ(エトナ):標高の高さが灌漑の代わりの役割を果たし、健全な生育(Gambino)

唯一の懸念

すべてが順調というわけではありません。マメルティノDOCの生産者Feudo Solariaのアントニオ・グラッソ氏は、「私たちは慎重です。高温に特に敏感な品種であるノチェーラが、この先どう反応するか見極める必要があります」と話しています。記事はこの一文を「収穫報告全体の中で最も重要な一文」と位置づけています。シチリアの適応力は本物だとしても、すべての品種に当てはまるわけではなく、暑さに弱い品種は今後も苦戦を強いられる可能性があるということです。

また、アルベレッロ栽培は手作業が中心で収量も低く、コストのかかる農法です。パンテッレリア島でこれが成り立っているのは、5,000人の島民がこだわりを持って続けているからに他なりません。温暖化が進むなかでこの採算性をどう維持していくかは、シチリアにとっても簡単な課題ではないと記事は指摘しています。

まとめ

2024年の深刻な干ばつから2年。2026年のシチリアは、雨に恵まれた冬と春のおかげで、高品質な収穫への期待が高まっています。同時にこの経験は、シチリアが何世紀もかけて培ってきた「水を使わずにブドウを育てる」知恵の価値を、世界のワイン産地に改めて示すきっかけにもなっています。気候変動が進むなかで、シチリアの伝統的な栽培法は、単なる郷土色ではなく、これからのワイン造りの実用的なヒントとして注目されていくのかもしれません。


🍷 夏の30%offセール、数量限定1セットずつ 🍷

それぞれ数量限定1セットのみのご用意です。売り切れ次第終了となります。

夏祭りの宵に。泡がはじけるノスタルジックサマーセット(4本) ¥6,600

縁側で涼む、白ワインで辿る夏の記憶セット(3本) ¥8,650


ブログに戻る

コメントを残す