そうめんに、キアレットを。夏の食卓とイタリアンロゼの意外な好相性
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「そうめんは麺料理ではなく、つゆ料理」
そうめんの味を決めているのは、実は麺そのものではありません。めんつゆです。
醤油・みりん・かつおや昆布のだしを合わせたつゆには、麹菌や乳酸菌がつくる旨味と酸味が幾重にも重なっています。醤油の酸味は乳酸菌の働きによるもの、かつお節だしの酸味も乳酸に由来することが知られています。そうめんという料理は「塩味・旨味・酸」の三点で成り立っていると言っても過言ではありません。
さらに、めんつゆの旨味には「相乗効果」という科学的な裏付けもあります。昆布だしの主成分であるグルタミン酸(アミノ酸系のうま味)と、かつお節に含まれるイノシン酸(核酸系のうま味)。この2つが組み合わさると、うま味の感じ方は単独のときの7〜8倍にもなると言われています。合わせだしがなぜあれほど奥深く感じられるのか、その答えがここにあります。
この「複雑に重なった旨味と、はっきりした酸」という構造を踏まえると、タンニンのしっかりした赤ワインは分が悪くなります。渋みがつゆの繊細な旨味を覆い隠し、ワインだけが浮いてしまうからです。逆に、白ワインのようなキレのある酸と、赤ワイン由来の軽やかな果実味を併せ持つロゼワインは、つゆの旨味・酸味とちょうど釣り合う、外しにくい選択肢になります。
温度帯の一致も見逃せません。そうめんは冷水で締めて食べる料理、ロゼもよく冷やして(8〜10℃前後)飲む酒です。口に運んだときの「冷たさの体験」がそもそも噛み合っています。
七夕とそうめん、先人の知恵
そうめんが日本の夏の行事食になった歴史は古く、平安時代の宮中行事にまで遡ります。「糸に見立てて機織りが上達するように」「小麦が毒を消すという言い伝えから健康を願って」「彦星と織姫のデートにあやかって恋の成就を願って」など、由来には諸説ありますが、いずれも千年以上前から続く夏の風物詩であることに変わりありません。
面白いのは、そうめんが日本各地でまったく違う個性に育っていることです。讃岐そうめんは繊細でしなやかな喉ごしが特徴で、対する信州そうめんは太くコシのある食感を持ちます。同じ料理名でも、麺の個性が違えば、つゆの濃度や薬味の効かせ方も変わり、合わせるワインの「重さ」の目安も変わってきます。
薬味に生姜やみょうがを添えるのも、そうめんの「体を冷やす性質」を中和するための先人の知恵。生姜は体を温め殺菌効果を高め、みょうがや大葉は香りで食欲を刺激します。この薬味の効かせ方によって、合わせるロゼの選び方も変わってきます。
そもそもロゼワインとは何か
ロゼワインは「赤ワインの手前で止めた」ワインではなく、独立した造り方を持つワインです。代表的なのは以下の4製法です。
- セニエ法:黒ブドウの果汁を発酵前に短時間だけ果皮と接触させ、ほんのり色づいた果汁だけを抜き取って発酵させる、最も一般的な製法
- 直接圧搾法:黒ブドウをそのままプレスし、抽出された淡い色の果汁を発酵させる製法。色は最も淡くなりやすい
- 混醸法:黒ブドウと白ブドウを一緒に仕込んで発酵させる製法
- ブレンド法:完成した赤ワインと白ワインを混ぜる製法(EUでは通常のロゼ・スティルワインでは認められておらず、主にスパークリングワインで使われる)
製法によって色調や口当たりが変わるため、「ロゼ」とひとくくりにせず、どんな造り方をされたワインかを知っておくと、料理との相性もより読みやすくなります。赤ワインのコクと白ワインの爽やかさを両立しているのがロゼの本質的な強みで、魚料理にも肉料理にも寄り添える万能さは、和食全般との相性の良さにもつながっています。
イタリアンロゼ、2つの個性
イタリアには数多くのロゼが存在しますが、そうめんとの相性を考えるうえで対照的な個性を持つ2つのタイプをご紹介します。
キアレット(Chiaretto) ― ガルダ湖畔(ヴェネト州・ロンバルディア州)で造られる、淡いピンク色の軽やかなロゼ。イタリア語で「淡い、明るい」を意味する言葉が語源とされ、その名の通り透明感のある色合いが特徴です。フレッシュでややフルーティー、軽やかな酸を持ち、香りはレッドベリーや白い花を思わせます。薬味をきかせたシンプルな「つけそうめん」に合わせると、麺とつゆの繊細さを邪魔せず、すっと寄り添います。とくに、みょうがや大葉で香りを立たせたそうめんとは、爽やかさ同士が響き合う組み合わせです。
チェラスオーロ・ダブルッツォ(Cerasuolo d'Abruzzo) ― アブルッツォ州で造られる、名前の通り「サクランボ色」のしっかりとしたロゼ。モンテプルチアーノ種のブドウから造られ、透明感のある濃いピンク色が印象的です。チェリーやストロベリーの香りがあり、フレッシュながらコクもあります。13〜14℃とやや高めの温度で提供するのがセオリーで、トマトやツナを合わせた冷やしそうめんにも負けない存在感があります。トマトの酸味とうま味(グルタミン酸)、ツナのコクに、チェラスオーロのしっかりとした果実味と酸が寄り添い、夏らしい一皿に仕上がります。生姜をきかせてキリッと仕上げたつゆとの相性も良く、ワインの果実味が生姜の刺激をやわらげてくれます。
実践編:選び方と楽しみ方のコツ
- 色の濃さでつゆの濃度に合わせる:淡い色のキアレットは薄めのつゆやシンプルな薬味に、濃い色のチェラスオーロは具沢山でしっかりめのつゆに合わせるのが基本の考え方です
- 温度は料理に合わせて微調整する:キアレットは8℃前後としっかり冷やし、チェラスオーロは13〜14℃とやや高めにすることで、それぞれの個性が最も引き立ちます
- グラスは小ぶりのものを:白ワイン用のやや小さめのグラスを使うと、冷たさが保たれやすく、そうめんの食事のペースにも合います
今日のひとことまとめ
- そうめんの正体は「つゆ料理」。うま味の相乗効果と酸のバランスに合うのは赤より断然ロゼ
- 冷水で締める麺、よく冷やして飲むロゼ。温度帯まで相性がいい
- シンプルな薬味そうめんには軽やかなキアレット、具沢山のそうめんにはコクのあるチェラスオーロを
いつもの一杯を少し変えるだけで、夏の食卓の景色が変わります。今年の夏は、そうめんの隣にロゼを置いてみてください。
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